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FROM
TOKIWA-sama
「太陽の花束を君に」
「とうとう来ちゃったなぁ…」
何が、とは口にしないのがモクバの意地。壁に掛けてあるカレンダ−…『8月12日』を見つめたまま溜息が漏れる。この日をどんなに待っていただろうか…
そして、恐れていただろうか。本当は今すぐにでも家を飛び出して逢いに行きたい。探して、叫ぶように呼び止めて、その笑顔を見たい。そしてずっと……。誰にも譲れない存在。誰にも譲らない愛おしい人。でもそうするにはまだ自分は幼すぎて。
「……くそっ…」
考えれば考えるほど自己嫌悪に陥りそうで嫌だ。小さく舌打ちをすると、怠い身体を無理矢理起こす。
着替えてから廊下に出ると、相変わらず夏なのにひんやりとした空気が辺りを包み込んでいた。コツコツと規則正しい音を鳴らす時計に目を向ける。
(………まだ5時半じゃんか……)
余程この日が来るのを期待していたんだなと思う。それが自分だけでない事を心の隅で願いながら。『誕生日』なんて誰にでもあるもので、それでも自分にとって特別な存在の『誕生日』は、何故だか自分の事のように嬉しく思ってしまうのはどうしてだろうか。
「またひとつ…差がひらいたか……」
自分と彼女の“歳の差”。こんなに苦しむぐらいならいっそ記憶がない方が良かったかもしれない。こんな時は自分の尊敬する兄でさえこれでもかというほど妬ましく思ってしまう。
『兄サマはズルい』
いつだったか、パソコンに向かっている兄に呟いた事があった。何が狡いのか、そんな事口にも出したくない。聞こえなかったのか、何がだ?と聞いてくる兄に対して何でもないよと再び呟いた。自分はまだ小学生で彼女は高校生。これじゃあ『子供と大人』と言っているようなものだろう。速く、速く“大人”になりたい。彼女に相応しい立派な“大人”に。『大きくなったら』なんて悠長な事は言ってられないし聞く耳も持つ気はない。それでも時間は誰にでも同じように流れる。一年でもいい、一ヶ月でも、一週間でも…一日でも一時間でもいい、とにかく速く“大人”になりたい。その為なら何だってするから。モクバはグッと拳を握って時計を睨む。『速く大人にしろ』とでも言うかのように。
ふと、視線が窓の外へと移った。この時刻にしては明るい青空と白い月が見える。朝早く見る事が出来る月は綺麗だ。白く、汚れのない綺麗な色をした月を彼女にあげられたならと何時も思う。何事に対しても真っ直ぐで純粋な彼女にこそ相応しいと。
「………アンズ……………っ!!」
慌てて口を塞ぐ。誰も居ないはずの廊下をきょろきょろと見回してから一人赤くなりながらも溜息をついた。そして窓辺に近付き視線を落とすと庭の隅に鮮やかな色の花を見つける。
「ひまわり…」
まだ咲きたてで両手に乗るほどの大きさだが、女性が持つには丁度良い大きさ。青空をまとう空気と太陽の色を一杯に詰め込んだ夏の宝石箱。モクバは何かを思いついたように急ぎ足で庭へと向かった。
庭に出てみると青空に映えた向日葵達がモクバを待っていたかのように凛と咲き誇っていた。大き過ぎず、小さ過ぎない向日葵達に心の中で謝って茎を切る。部屋に持って帰ると白いリボンと薄い青色のビニ−ルで器用に包んだ。我ながら上出来だ、と微笑して、わき目も振らずに今度は家を飛び出した。家を出る時見た時計は6時少し前を指していた。こんな時間に居るとは思ってない…居るはずがない。それでも息が切れるほど足は速く動く。両手で大事に向日葵の花束を抱えて向かった先はとある公園。緑が多く、空がぬける様に見える場所だ。
「―はあっ…」
息を切らして公園内に足を踏み入れた。期待なんて最初からしていない。ただ、居てくれたらどんなに嬉しいだろう。たった一人逢いたいと思う人が―……。
「………居た……」
目を見開いた先には一人の少女が。ベンチで何をすることなく、ただ空を見上げて何かを想っていた。普段見る事のない、白く長いワンピ−スを着た杏子はモクバには気が付いていない。一歩、また一歩と近付くが、それでも振り返る事はなかった。
「―ッ!?」
急に激しい喪失感に襲われる。空を見ているだけの杏子がその空に溶けてしまいそうで…。グッと足を地に踏みしめた。
(渡さない…どんなに広大な空にも幻想的な月にも絶対……渡したくない!!)
「アンズ!!」
大きく手を伸ばすと同時にモクバは杏子の名を呼んだ。弾かれたようにアンズが振り返り、そして笑った。モクバを愛おしそうに、柔らかい笑みで見つめた。そして自分の腕を掴むモクバにニッコリと笑いかける。
「おはようモクバ君」
「おぅ!おはよ…じゃなくて!!」
呆れたように突っ込むのは癖なのだろうか。杏子は気にせずモクバに笑んでいた。
「なんでこんな朝早くに公園なんかに居るんだよ?」
朝だって夜と同じで結構危ないんだからなと安心しきったようにモクバが杏子の目の前に立つ。杏子はクスクスと楽しそうに笑うと再び空を見上げる。両手を広げて包み込むように、そっと…。
「此処に来ればね、モクバ君に逢えるんじゃないかなって思ったの」
「…オレに?」
キョトンとした表情で杏子を凝視するモクバ。杏子の蒼い双眼はモクバを映すことなく空を映している。
「何となく、だけどね……でも逢えたからよかった」
「………アンズ」
なに?と首を傾げて視界にモクバを映すと、目の前には綺麗に包まれた向日葵の花束が出されていた。つつ…と視線をモクバに移すと仄かに頬を赤く染めたモクバが目を逸らしている。
「……私に?」
「…アンズ、今日誕生日だろ?プレゼント何にしようか色々考えたんだけど結局決まらなくて…アンズが花好きなの思い出したから……」
ボソボソと呟く様に話すモクバに杏子も頬を赤らめて花束を受け取った。抱き締めるように持つ杏子にモクバの視線が止まる。ああ…自分が惹かれたのはこの慈愛に満ちた眼差しだったんだ、と今更ながらに思った。全てを愛するような澄んだ瞳に絹のような艶のある栗色の柔らかい髪もモクバの好きなトコロだったが。
「向日葵かぁ……モクバ君の想いもこの花と同じなの?」
「……アンズは?」
質問をする杏子に対して自分が答える事はなく、その質問をさらに杏子へ返した。杏子の蒼い双眼は真剣な表情をしたモクバを見て一瞬見開かれたが、すぐにいつもの優しい眼差しに戻る。モクバの頬に手を添えて不意打ちのキスをした。
「ッ…!?」
「…勿論だよ」
真っ赤になるモクバに相変わらず赤い頬と柔らかい笑みでありがとうと答える杏子。モクバも嬉しそうに笑ってオレもだぜぃとはにかんだ。―向日葵…『私の目はあなただけを見つめる』―
白い月はどこまでも澄んだ空に包まれていた…。
END
作者コメント>
いやはや…モクバ&杏子話は難しいのぅ。
でもこの二人は可愛くて大好きですv
一緒の所を見てるとはにゃ〜ってなりますv
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