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FROM MORISITA-sama
「blue on blue」
「あ・・・綺麗」
静香は宝飾サロンの前で、ウィンドウに飾られていた宝石に見入っていた。
今日は海馬と二人で、童実野町の一番大きなデパートに来ていた。
海馬が帳場に用があるというので、静香はウィンドウショッピングをして時間を潰していたのだ。
静香は綺麗なもの、可愛いものに目がない。
もちろん買うことなんかできないので見て楽しんでいる。
目をひいたスターサファイアがあった。
カボッションカットの上に乗っている光の筋が見事に出ている。
それよりも、その深い青色が静香の目を奪った。
だってその色は・・・。
「どうした?それが気に入ったのか?」
用が終わった海馬が、一心不乱に宝石を見つめていた静香に声をかける。
自分が夢中になって見ていたのを気付かれて、静香は少し照れた。
「いえ、まあ・・・」
海馬はちらりと、その指輪を見て静香の肩を抱くと、店内に入っていく。
よく磨かれたタイルは滑りそうで、静香は思わず海馬の腕にしがみつく。
「いらっしゃいませ」
海馬は迷わず奧まで入り込むと、顎をしゃくって入り口を示した。
「あそこに陳列してある指輪を見せてくれ」
「かしこまりました」
ガラス製の店内の陳列棚の上に、静香の見ていたスターサファイヤがビロードのピローごと置かれる。
「手を出せ」
運ばれてきた指輪を無造作に掴むと、海馬は静香の左手に滑り込ませる。
それは静香の中指にするりと入る。
「ぴったりだな」
静香の指の具合と、指輪との隙間を確認していた海馬が呟いた。
「お直しもできますが」
「いや、必要ない。包んでくれ」
「ありがとうございます」
成り行きにまかせて、ただ流されていただけの静香はここに至って、ようやく海馬の意図を察した。
ええっ!まさか買うつもり!?
「カードは使えるな?」
「はい」
静香の驚きを余所に、海馬は事を進めていく。
カードケースからカードを取り出すと、(しかもアメックスのゴールドカードではなく、ダイナースの無制限だったりする)ボールペンで領収書にサインをしている。
八十万もするような指輪を、ポンポン買わないでっ!!
静香は焦って、海馬の腕を掴む。
「だめですっ!」
「なんだ?嫌いなのか?」
「そうじゃないですけどっ」
金銭感覚がずれすぎてて怖い。ねだるつもりなんか無かったのに。
「なら、なんの問題があるんだ?」
海馬は丁寧にラッピングされたその小箱を、静香の元に、ぽんと放ってよこす。
「俺の写真の代わりにそれを抱いて寝てろ」
戸惑ったようにそれを受け取った静香に、口元だけで笑って囁いた。
「え?!なんで知ってるんですか!」
「そんなことをしてたのか?」
冗談で言ったのが本当になって、海馬は静香をマジマジと見つめる。
静香は沸騰したように瞬間的に赤くなった。鎌を掛けられたというか、からかわれただけだったことに気付いて。
あーん、言わなきゃよかった!
海馬の写真は抱いて寝てるというより、寝室に飾ってあるだけだ。
寝る前に挨拶をするというか、見ているだけで幸せな気分になれる。
「いい彼氏ね」
店を出る寸前に、お店のスタッフが耳に囁いてきて、静香は恥ずかしさからも困ったような笑みしか浮かべることができなかった。
静香は手の中に収まる小さな箱を、途方に暮れたような表情で見ていた。
「ただ、色が海馬さんの眼の色によく似ている・・・と思っただけだったのに」
「だから嬉しそうに見ていたのか」
「そんな嬉しそうでした?」
「ああ」
恥ずかしい・・・。
本当は、こんな形代より、本物が側にいてくれればいいのだけど・・・。
でも、そんなことはできないから。
「あの・・・・・・」
「なんだ?」
「ありがとうございます」
海馬はフッと笑うと静香の髪を撫でた。
「昔は嫌いだったな。この目が」
海馬が目を押さえるようにして、呟く。
「え?なぜですか?」
「俺の眼の色が青く見えて不気味だと言われていたからな」
私は綺麗だと思うけど・・・こんな綺麗なのに不気味と思うなんてもったいない。
それは静香の素直さなのだが、異質なものに怯える人間も得てしてこの世には多い。
「それも俺の目にしては安物だが、まあ、俺がいつも見張っているということを忘れるな、ということをそれを見て肝に銘じていてもらおうか」
「私だけ見張られているんですか?」
ずるーい、と静香は口を尖らせた。
海馬は黙って静香の瞳を眺める。
「お前の目と同じ色の石は・・・トパーズとかになるのか?」
一般的日本人の静香の目の色は鳶色に近い。
「そうですね。もっと色が濃いかしら?」
「そうか。じゃあ、俺も・・・・・・」
と、先程の宝飾サロンに戻ろうとする。
「冗談ですってば!」
これ以上無駄な出費をさせられない。
静香は海馬の腕を掴むと無理矢理、下りのエスカレーターに乗り込んだ。
「海馬さんの好きな色ってなんですか?」
「青」
即答だった。
今度、海馬にセーターを編む時、絶対青色にしよう。そう静香は心に誓う。
「目の色だからですか?」
「それもある」
「じゃあ他の理由ってなんですか?」
海馬の目が『当ててみろ』と言っている。
もう、これくらいのアイコンタクトは二人の間では当たり前になっていた。
「ブルーアイズ・・・ですか?」
海馬の魂のカード『青眼の白龍』
とんでもなくレアなカードで、デッキに入れているデュエリストは海馬だけだということを、静香は知っている。
高貴で、誇り高くて、そして瞳の色が似ている。海馬にはぴったりだ。
同じ青い瞳のブルーアイズを魂のカードとするのは、瞳の色のせいもあったのだろうか?
「それもあるな」
「まだあるんですか?」
「それだけじゃない・・・・・・縁語というのを覚えているか?」
「え?あの和歌とかのですか?」
「そうだ」
修辞技巧の一つで、意味上密接な連想関係にある語を一つの短歌の中に入れることだったと思うが・・・。
この場合、どういう意味があるのだろう?
「俺の名前は『海馬瀬人』で海、瀬、と水に縁があるだろう?水を形容するのはblue、青だからな」
「水色じゃ駄目なんですか?」
「水色は日本語だ。英語ではあの色はスカイブルーと言うんだ」
確かに、水が水色しているのは日本くらいなものだろう。中国では水は黄砂で濁って黄色いというし。
「少なくとも、水の大元、海の色は青いだろう?」
marineblue・・・。
でも、海の色は空の色を映して青いんじゃなかったっけ?
大分混乱してきたが、そんなことは今はどうでもいい。
「お前の名前も水に縁があるな」
「あ・・・」
「『川』井」
海、川、瀬・・・全て水に縁がある。
水の縁が二人を引き寄せた。
出会う為に姓を運命が変えた。
静香も海馬も、生まれもった姓ではない。静香は親の離婚で、海馬は養子に引き取られて。
でも、自分が川井静香になったからこそ、海馬に出会えた、そう思える。
姓がかわりたての時は、それまでずっと城之内静香だったから、川井静香になるのが慣れなくてとまどった。
女の子は結婚して姓が変わるから、今変わっても大差ない、と母は静香を諭したものだった。
静香が母親に引き取られた理由はそれもあったとも言っていた。随分と身勝手な理由だったが、全てに理由を付けたかったのだろう。
今の川井の姓も、あと何年かしたら、また変わるのだろうか・・・?
静香はちらっと海馬を見た。
「すべての川は海に流れ込むんだ。心配しないで海馬静香になれ」
「もう!海馬さんたら」
静香が考えていたことくらい判っていたらしい。
どさくさに紛れてプロポーズされてしまって、静香はまた顔を赤くした。
海馬には胸を締め付けられるような思いばかりさせられている。
自分は海馬をこんなに翻弄したりしないし、またできないのに、きっと海馬にとってはそんなことは容易いのだろう。
そう思うと、なんか悔しくてつねってやりたくなったが、また感情を読まれて、拗ねていると悟られるのがもっとイヤだったので、そっぽを向くのにとどめた。
「それと、青が好きな理由は最近もう一つ増えた」
「なんですか?」
「ヒントはもう与えてあるぞ。名前に関係することだ」
「・・・・・・?」
名前?
水に関係する以外になにかあるのかしら?
海馬さんが青色が好きになる理由。
名前に関係すること・・・・・・。
しばらく首をひねっていたが、閃きすらでてこない。
海馬は考えている静香を楽しそうに見ている。
その瞳は先程のスターサファイアのように光っている。
そんな目に見つめられて、静香はドクン、と心臓が波打つ。
こんな綺麗な宝石みたいな瞳を二つも持っているのだもの。宝石なんか必要ないわよね。この人には・・・。
「判らないか?」
「判らないです」
降参して、海馬に答えを仰ぐ。
「静香、お前の名前を分解してみろ」
私の名前?
海馬の名前に気を取られていて、自分の名前にヒントがあると思わなかった。
「え・・・・・・?かわいしずか・・・?あ・・・!」
自分の名前を復唱し、そして、字を思い浮かべて閃いた。
確認するように海馬を見つめると、サファイアのような目が笑っている。
「お前の名前にも『青』が含まれているだろう?」
静香の「静」の字は編が『青』になる。
「俺の愛しいものは全て、『青』に縁がある」
<end>
作者コメント>
こじつけでやりましたが、結構上手くまとまって面白かったです。
甘い言葉を吐いてるつもりないのに、(いわゆる、本人真面目)端から見てると痒いようなのが大好きです。
しっかしえらい気障だな・・・。痒い通り越して痛いわ・・・。
しかし、瀬人っち、なんで無制限なんて必要なんでしょーねー(汗)その辺突っ込まないでやってくださいまし(^^;)
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