By KAMIKAMII


「Chain Destruction」

 

「ロックを開けろ」
ロウソクの明かりにともされてなお薄暗い遺跡の中、マリクの無機質な声が響く。命じられた男は千年ロッドにより感情や意志といったものを封じられマリクの言うがままだ。男はその遺跡には似付かわしくないコンピューターの数字キーを押して、自ら封じた決して外してはならないロックを外した。
キーを外してマリクの前に姿を表したのは…神。誇り高い神でありながら禍々しく、呪われたそのカードをマリクは手に取った。
「これが神のカードか…」
ラーの翼神竜-------姉によって秘密裏に封じられたその一つ。脳裏にイシズにそれを依頼したペガサスの顔が浮かぶ。
 
(--------忌々しい)
 
神を手に入れた喜びより、カードに触発された苛立ちの方が大きかった。けれど、まあいい。これが全てを変える足がかりになるのなら、我慢もしよう。
マリクは自分の人形となった男に再び命じた。
「眠れ」
そのとたん、男は崩れ落ちるように眠りにつく。目覚めた時には、マリクの事も、操られてキーをあけてしまった事も全て忘却の彼方へと行っているだろう。マリクは男を残し、踵をかえした。
禁じられた力を手に入れた。けれどもそれが罪だとは思わない、そのマリクの足取りは力強かった。
 
 
「マリク。あなたの行動は千年タウクにより見通していました」
「…っ!!」
暗い忘れられた遺跡より出ると、今は一番会いたくない人物に声をかけられて驚いた。
(姉さん…)
どこまでも澄んだ美しい瞳で見つめられる。この瞳で見られるのは心地よくて好きだった。
「私達の一族は三千年の長きに渡り、王家の谷を守ってきました。あなたは先祖たちの犠牲を無にするつもりですか」
けれど今はその瞳でまっすぐに射ぬかれて、胸の奥にさざ波がおこる。めったに見せない厳しい瞳とマリクを責めるような声音に胸が痛い…………でも。
「何のための犠牲だ!! いつか誰かがこの因習を破らなければならない! ボクが三枚のカードを束ね、王の称号を手にする。そして我が一族を呪われた運命から解放する!!」
自らを律するために声を荒げて、真実の半分で返事をかえす。真実をあなたのタウクは見通しているのだろうか?
 
父が死んだ夜の記憶が蘇ってくる。憎しみと怒りと悲しみ、そして姉の流した血の味に狂った日。
そうだ、あいつを出すわけにはいかない、封じるんだ。そのためには力が必要なんだ!! 全ての因縁を断切るためにも。
 
 
「それは一族への裏切りです!! ここを通すわけにはいきません」
イシズの強い声、でも瞳に怒りは浮かんでいなかった。むしろ悲しげに見える。
(姉さん、あなたはこんな時にまで優しいんだね)
リシドとは悲しみを共有していた。けれど姉さんはその悲しみを包み込んで癒してくれた。
いつもイシズは優しかった。どんなときも…あの時ですら。
「道をあけてくれ」
ロッドをイシズに向ける。姉さん、それがどんなに勇気がいる事か知ってる?
「この私に千年ロッドを使うことがあなたにできるの?」
「一族の未来のためならやるよ。例え姉さんにでもね」
千年ロッドが妖しく光った。
 
 
  一族の祈りの声が聞こえる。それともあれは怨嗟の声だろうか。
  王に対して? それとも、ボクに?

 
 
今マリクの眼の前にいるのは、まるで女神の石像のようで。千年ロッドの力で心が凍りついたその顔は、何の表情も浮かべてはいない。
「ごめんね、姉さん」
そう言ったマリクは今にも泣きそうなそんな顔で、イシズにすがりついた。ロッドで操られた者はその間の記憶がない。だから今だけ…。
そしてその柔らかい胸に子供のように顔をうずめる。子供のころはよくこうした。母の腕の中より安心できたその場所は、今はどこまでも居心地のよい牢獄のようだ。そう思うのは、自分の心のありようの問題だとわかっているけれど。
イシズを抱きしめたまま、顔だけを上げる。そしてイシズの服のすき間からわずかにのぞく胸元を見た。
あの夜マリクが…いや、もう一人の自分がつけた傷跡はきれいに消えていてホッとする。
 
 
全てが変わってしまったあの夜。
-------------自分の中に、あんなものが巣くっているなんて知らなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
父の葬儀の夜。どうしようもない憤りを感じてマリクは一人地下室にいた。儀式を受けたあの部屋だ。
「あいつだ、あいつさえいなければ父さんは!!」
父の死がつらくて悲しくて。脳裏から惨めに死んだ父の姿が消えない。泣き叫んで、狂ったように暴れて目についたもの全てを破壊した。千年ロッドすら壁に激しくたたきつけ暴れ狂った。そうする事でしか、どこまでも広がる心の闇に耐えることができないかのように。
(あれはボクの未来の姿だ)
このままだといつか闇に呑み込まれる……恐ろしかった、どうしようもなく恐ろしく同時に憎かった。マリクの一族は3000年に渡って闇の千年アイテムに、王の亡霊に縛られてきた。それでも千年アイテムの保持者として認められなければまだ逃げ道はあったかもしれない。だが選ばれてしまった、千年ロッドの意志とやらに。しかもよりにもよってイシズまで千年タウクに。なぜ自分も姉もあれに一生縛り続けられ、闇の谷を歩き続けることを強いられなければいけないのだ。
暴れて暴れて一族の因習を、それを植え付けた王への蓄積された憎しみが爆発した時……なにかがマリクの心にささやきかけた。
《そんなに王が憎いか?》
半分狂いかかっていたマリクは、それが何かだなんて判断する事もできず、問われるまま答えた。
「憎い……!!! なぜ父さんが死ななければいけない。どうしてボクたちだけがこんなに苦しまなくてはいけない!! 記憶がなんだというんだ。見たことも会った事もないやつのために、どうして一族が一生を縛られる!! そんなもの知った事か…!!!」
マリクの魂の慟哭に、そそのかすように静かに闇の声は語りかける。
《奴は寄生虫さ。宿主がいなければ生きてはいけないくせに、俺達には苦しみや悲しみしか与えない。何を守る必要がある? お前自身や愛する者より大切か? そんなもの消してしまえ。殺してしまえば終わる。何もかも終わって解放される》
「殺す………」
それはまるで天啓を告げる神の声のような…悪魔の声で、マリクの狂気に染み込んだ。
「殺す、そうだ、殺してしまえば終わる…」
《そうだ。殺せ、殺せ!! 殺して何もかも終わらせるんだ。殺せ!! 破壊してしまえ、何もかも!!》
頭の中をグチャグチャにかき回すその声に、マリクは流された。いや流されたかったのかもしれない。誰の声かなんて、その時はどうでもよかった。
「殺す、殺す、殺す…殺してやる、殺してやるっっ!!」
《そうだ殺せ!!! 殺して奴の力を自分のものにしてしまえ。そうすれば望みはかなう…何もかも》
「ボクのものにしてやる…っ!!! あいつを殺してやる!!!! 殺してやるーーーーーーーーっ!!!!」
狂気に呑み込まれたマリクの獣のような、声にならない絶叫が地下室に響いた。
 
 
そのマリクの正気が闇に呑み込まれた瞬間。
マリクの狂気の主が、マリクの意識を凌駕した………。
 
 
 
 
 
一瞬前の嵐が嘘のように、地下室は静寂に包まれた。
「やっと表に出れた…」
長かった。《マリク》は宿主の意識の裏に潜み、ずっとこの時を待っていた。解放感に邪な笑みで顔が歪む。そして視線を部屋の片隅に向けると、転がっていた千年ロッドをひろい上げて握りしめた。自分の宿主のなんと弱く愚かなことだろう。おかしくてたまらない。マリクは《マリク》の意識の下で何がおこったかも把握できず闇の中をぼうっとしているのがわかる。
「マリク?」
その時、マリクの声を聞きつけたのかイシズが姿をあらわした。《マリク》はさっと表情を消して振り向き見つめたイシズの胸元には、千年タウクがロウソクの光をうけて輝いている。
父親の死に嘆き、憔悴していてなお美しいその美貌。もう一人の自分が誰よりも愛する女。
(-------いい女だ)
イシズはムチャクチャになった部屋を見渡して涙を浮かべた。《マリク》にも目じりにマリクの残した涙の跡が残っている。
「マリク…」
悲しげな顔でマリクに手を伸ばした。もう一人の《マリク》は動かず、ただ抱きしめられるままにした。その耳元に優しい声が響く。
「一人で泣かないで……」
イシズの可愛い大切な弟。彼は幼いころからイシュタール家の長男として厳しく育てられた彼は、同じ年ごろの子より随分としっかりしていて大人びていた。それは両親の教育のたまものだったけれども、本当は随分と繊細な所がある。イシズやリシドにしかそんな所は見せなかったが。
闇を恐れるマリクは小さい頃は夜一人で眠るのが恐くて、よくこっそりとイシズの部屋に忍び込んできた。イシズはそのたびいつも笑って寝床に受け入れて、小さなマリクを優しく抱きしめて眠ってあげた。そうすると安心して、かわいらしく安らかな寝息をたてたのだ。泣いている時も怒っている時も、イシズが抱きしめるとマリクは落ち着いた。マリクが儀式を受けたあの日から、そうする事はなかった……いや、禁じられてできなかったけれど。こんな日ぐらい昔のように抱きしめてやってもよいはずだ。自分自身も悲しくて、人のぬくもりがどうしようもなく恋しいのだから。
《マリク》もイシズを抱きしめた。もちろん悲しいのではなく、その感触を楽しむために。イシズのしなやかな体からほのかに花の香りがする。《マリク》はその香りに誘われるままその首筋に口付けを落とした。
柔らかい唇と舌の感触にイシズは驚いて身をすくませとっさに離れようとしたが、背中にまわされた力強い腕にそれを拒まれた。
「"俺"は泣いてなんかいませんよ、姉上サマ」
クックッとくぐもった笑い声にイシズは再び驚いた。なんとか体をねじり顔を上げ弟の顔を見る事ができると………そこには今まで見た事のない表情の弟がいた。口調も違う。これは自分の知っているマリクではない。何かが決定的に違うとイシズの直感が告げていた。
「あなたは誰!?」
吐息のかかる距離で《マリク》の瞳をのぞき込み詰問しながら逃れようともがくが、振りほどけない。ますます力がこめられ、苦しいほどだ。
「マリクですよ?」
「いいえ違う。あなたは私のマリクじゃない」
断言するイシズを《マリク》はおもしろげに、そして値踏みするような眼で見つめる。
「ひどいな…本当にマリクなのに。昔はこうしてよく抱きしめてくれた。感触が変わったから誰だかわからなくなったのかな?」
妖しい微笑を浮かべながら答える《マリク》の胸をイシズは拳で激しく叩いた。すると《マリク》の力が一瞬ゆるみそのスキをついて腕から逃れようとしたが、すぐさま千年ロッドを真横にのど元に押し当てられ、そのまま壁に押し付けられた。
「くっ…」
息が苦しく声がでないイシズを《マリク》は楽しそうに眺めた。
「苦悶にゆがむあなたの顔はとてもきれいですよ姉上サマ。そそられる…ククク」
《マリク》の唇が自分のそれに重ねられる。イシズは必死で逃れようと顔をそらし《マリク》を力の限り突き飛ばしたが、そのはずみで千年ロッドの鋭利な先端がイシズの胸元を傷つけ朱で彩った。
イシズがあまりの息苦しさに激しく咳き込みながら《マリク》を見ると、千年ロッドについた血をぺろりとなめとっている。背筋がぞっとして、入口に向かい身を翻したが《マリク》に腕をつかまれそのまま冷たい床に押し倒された。そしてその上に《マリク》が馬乗りになる。
「何をっ!!!!」
「愛してますよ、姉上サマ」
"もう一人のマリクが"という言葉は呑み込んだ。そのマリクはいまだに自分の意識の下で我を失っていて、今なにが行われているかわかっていない。
《マリク》はイシズの暴れる両腕を押さえつけ自由を奪い、胸元の傷に舌を這わせた。音をたてながらその甘い血をすする。
その音を聞きながらイシズは嫌悪感に身を震わせながら顔をしかめ、混乱する頭で自分にのしかかっている男の事を考えた。この男はいったい誰-------------その姿も、声すらもまったくマリクのものだ。けれど、まるで心だけが別人のようで。マリクは自分を傷つけるような事を、何があってもするはずはないと信じている。
そこまで考えてはっと思いだした。父に聞かされた"イシュタール家に巣くう悪魔"の話を。
ふと、イシズの抵抗が止まった。それに気づき《マリク》が傷口から顔を上げると千年タウクの輝きが目に飛び込んできた。突然の光に目をこらしてイシズを見ると、何もかも見通す様などこまでも透き通った瞳で自分をのぞきこんでいる。
《マリク》がとっさにタウクに手を伸ばして掴むと、イシズが悲鳴を上げた。恐怖にひきつった顔で唇を震わせながら声をしぼり出す。
「あなたは…お前は…っ!!」
千年タウクの力でおぼろげな未来を見通して、イシズはそれが何であるかを理解した。これは間違いなく自分の愛する弟マリクだ。けれどもイシュタール家に…今はマリクの心の闇にすくっていた悪魔が目覚めたのだ。そしてこの悪魔の導く未来までもが見えてしまった。
「フン、気づいたか。--------------で、何が見えた」
あまりにも恐ろしい未来を口にするのも恐かったイシズは何も答えない。。かわりに言ったのは別の言葉だった。
「マリクを返して!!! マリクから出ていきなさい!!」
「楽しい未来だったようだな」
この女は危険だ。己の直感と千年タウクでいとも簡単に《マリク》を見破った。それでもタウクを奪えばよいだけの事だ…千年タウクがなければただの女。どのみち千年アイテムは全て手にいれるのだから。だが未来を見たこの女は間違いなく《マリク》を阻みマリクを救おうとするだろう。このままこの場で殺してしまおう。生かしておいて千年ロッドで操る手もあるが、マリクにとってのイシズの存在が大きすぎる。----------だが殺す前になぶって遊ぶというのも一興だ。
「あんたを抱けば、マリクはどうなるだろうな」
マリクの意識が覚醒して全てを理解した時どうなるだろう。考えただけで楽しくてゾクゾクする。この女を抱けば、きっと本当にあいつの心は壊れる……その時こそ、自分は自由になれる。そして自分の望みをはたす時だ。
ぞっとする笑みを浮かべた弟の言葉に、イシズは凍りついた。今、この家には自分たち以外いない。葬儀のあと、いなくなったマリクを探しに一人で家に帰って来たのだ。母もリシドもまだ帰らない…自力で逃げなければ!!
再びあがくが、どうしても《マリク》の腕の中から逃れる事がではない。《マリク》の手がイシズの裾をまくしあげ足をなぞる。
「嫌…!」
首筋をおぞましい生あたたかい感触が這う。
「やめてマリク!!!」
《マリク》の手がえりにかかった。
「いやああああああああっっ!!!」
 
 
 
(------------------------姉さん……?)
 
 
 
「!!!」
イシズの叫びにマリクの意識が反応したのを感じる-------まずい。
「マリク、マリク、お願いやめて!!!!」
イシズをもてあそんだまま《マリク》はマリクの意識を押さえつけようとしたが、弟を呼ぶ声に急速に覚醒しつつある。けれどまだ体は《マリク》の支配下に置かれていて、マリクは自分の状況が把握できない。
(なんだ、これはいったい何だ!?)
とても近くで見ているのに、とても遠くに感じるこの感覚。自分の名をイシズが泣きながら叫んでいる。露になったその胸元をまさぐる手が見えるそれは。
(ボクの手だ!!)
衝撃にマリクの意識は完全に覚醒した。自分でない別の存在がイシズを組み敷いているのを自覚した。泣いている…姉さんが、姉さんが!!!
(姉さん!!!!)
「…くそっ!!」
体の主導権を奪い返そうとマリクの意識が暴れだした。激しいマリクの抵抗に、イシズをもてあそんでいた手の動きが止まる。イシズがハッとして《マリク》を見ると頭を抱えて苦しんでいる。
「姉さんに、手を…だすな!!」
「------マリク!?」
弟の口からでた言葉にマリクの意識が戻ったのかと思った瞬間、ものすごい形相の顔に変わった。
「だまれ!!!」
《マリク》の腕がイシズの首をものすごい力で締めつけた。もう遊んでいる余裕はない…マリクに体を奪い返される前に殺さなければ。
「ぐっ…」
(やめろ!!!)
「…マ…リ…っ」
イシズは声にならない声で、必死にマリクを呼んだ。そして震える手を《マリク》の頬に重ねて、狂気の奥にあるマリクを探してその瞳をのぞき込んだ---------------マリクと眼があった気がした。
次の瞬間《マリク》がうめいてイシズから手を放し、そのまま横に倒れ込んだ。
イシズはもう少しで窒息しそうだったためすぐに立ち上がれなかった。足が完全になえてしまっている。激しくせき込みながらもえりをかきよせ、半身だけおこした状態で《マリク》からあとずさった。《マリク》は倒れたまま動かない……うつぶせになっているため、表情がわからないからどちらかわからない。マリクか、それとも………………確かめなければ。
「マリク……?」
震える声でマリクに呼びかけるがマリクはぴくりとも動かない。イシズは逃げ出したい気持ちをねじ伏せて弟に近づき、手を伸ばしておそるおそると表情が見えるように肩を押した。マリクは眉間をよせて苦しそうな顔で気を失っている。どちらか判断がつかず迷っていると、マリクの瞼がぴくりと動いた。ぎくっとしてかけていた手を放すと、その瞼がゆっくりと開いた。
「姉、さん」
瞼の奥から現れたのは狂気をやどした瞳ではなく弟のもので…安心してどっと力が抜けた。
「よかった……マリク」
イシズが涙をこらえて微笑むと、マリクの目にみるみるうちに涙が溢れた。
「ごめん、姉さん…ごめん!! ボクは、ボクはっ……!」
《マリク》のした事は遠い夢の向こうの出来事のように、おぼろげにマリクの記憶の中に残っていた。口の中にはイシズの血の味も残っている。それらにこらえきれず顔を両手でおおって泣きだしたマリクの両手の間からは嗚咽が漏れでた。イシズはそのマリクの頭を持ち上げて膝の上に抱き寄せた。
「大丈夫よ。あれがあなたじゃないってわかってる………大丈夫」
何も大丈夫じゃなかったけど。何も解決していない……むしろこれからいろんな事が始まるのだけれど。今はそれ以外言葉が見つからなかった。
「姉さんっっ……!!!」
マリクが子供のように、イシズの腰に手をまわしてしがみついて来た。
「ごめん、本当にごめんっ…」
泣きながら謝り続けるマリクを、イシズは優しく抱きしめた。それしか、できなかった。
二人の側には、千年ロッドが静かに横たわっていた--------------------。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
マリクの心にえぐるような深い傷が残ったあの夜を、きっと一生忘れない。あの日以来あいつが出てくる事はなかったけれど、消えたわけではないのもわかっている。
あれがはたして千年ロッドに宿っていたものなのか、それとも自分の心の闇が生み出したものなのかわからない。自分は狂っているのかもしれない。けれどもう、そんな事は大事じゃなかった。大切なのは自由を手に入れること、だ。
「自由にしてあげるよ姉さん」
一族の因習から。王の呪いから。イシズにそんなものは似合わない。全ての鎖を断ち切ってやるんだ、この手で王を闇に葬って。そのあとで千年アイテムも全て始末してやる。そうすればあいつも消えるはずだ。
(ボク達が自由になるそのためには力が必要だ………………だから今は、千年ロッドを姉さんに使うよ)
全てが終わった時、イシズは自分を許してくれるだろうか。それはわからないけれど、このまま縛り続けられるのも、あいつに体を奪われるのもごめんだった。再びイシズを傷つけるような事をするぐらいだったら、死んだ方がましだ。
マリクはもう一度強くイシズを抱きしめた。ひょっとしたらこれが最後の包容になるかもしれないから。
「ごめんね、姉さん」
マリクはイシズに口付けた。ふれるだけの色んな思いをこめたキス。イシズに回した手をほどいてその顔をのぞきこんだが、何の表情も浮かべていない。それは自分のふるった千年ロッドの力のせいだけど、なんだか悲しくて寂しい笑顔が浮かんだ。
「さよなら」
想いを振り切るように、マリクはイシズを残して遺跡を跡にした。
マリクが立ち去りその姿が見えなくなって、ようやくイシズの瞳に光が戻った。
「マリク…」
弟の名前をつぶやいて、唇に指をそっとあてる。柔らかい感触が残っている。千年ロッドの力はイシズの強い意志の前に、完全に自由を奪う事はできなかった。体は動かなくても、記憶は全てある。ふれるだけの優しい口付けだったが、痛い程の想いが伝わってきた。眼をつぶると先ほどの今にも泣きだしそうな笑顔が瞼の裏によみがえる。
哀れな愛しい弟、マリク。
イシズは唇にふれた手をぎゅっと強く握り、もう一方の手で包み込んだ。強い決意を込めて。
「必ず助けてあげるから………」
 
 
 
 
あの夜。イシズが固めた決意を、マリクはまだ知らない。
 
 
 
 
                                  END


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KAMIKAMII's COMMENT

アニメ60話のあのシーンと現在のジャンプ(遊闘228)の展開でこの話ができました。マリイシ超萌え!! 萌・萌・萌!!(笑) 今後の展開でつじつまがあわなくなる可能性大なんですがっ、そこはひとつ大目にみて下さいまし…(^.^;) いやそれ以前に皆さんの白い目が恐いや……でもマリイシ同志、熱烈募集中(きゃっv)
冒頭の「忌々しい」ですが、わざと書いていませんがおさっし(?)の通りやきもちです。うちのマリクってほんとに子供〜(笑) いや、イシズを巻き込んで腹をたてたって事もあるんですけどね。

ところで今回はいつもと違う感じで書いてみたのですが、どうでしょう。いつもは視点は1つなんですが、マリク・《マリク》・イシズの3つの視点をわざところころ変えてみたんですが読みにくい?

 
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