FROM YUURI-sama

「日常的なこと。」

ピッ。
「あ・ごめん天化、起きてた?」
「…俺っちいっつも9時に寝るんだけどな…」
時刻は11時。
「だからごめんってば!」
「…いーけど、何さ?」
数秒の沈黙、自然なものではなく、自らの意志で作られた沈黙。
「…蝉」
「あたしの家から一番近くの公園! あたしそこにいるからっ! 迷惑じゃなかったら来てっ!!」
ガッチャン。
「…………」
再びしばしの沈黙。天化、一方的に切られた受話器を見て、
「何っだそりゃ」
ほんの少し不機嫌さがこもっていたが、無理やりさますように目をこすり、天化は着替え始めた。
彼女の、蝉玉のわがままはいつものことであったが、
せっぱ詰まった声に、何かが隠されていると天化は読みとった。
…つまり何か面倒なことをさせられるんだろう…。
「来た来たっ! やっぱりバイクで来たわねっ!」
嬉しそうにはしゃいでこちらを見ている蝉玉、かわいらしい笑顔ではあるが、その奥にどんなはかりごとがあるのか恐ろしいものであった。
「…あんたに呼ばれたらバイクと財布と防寒具は必需品さ、で? 今度はいったいどんな修羅場に行くさ」
「修羅場ぁ!?」
「あんたに連れて行かされる場所とか使わされる金額はまさに修羅場」
すかさず蝉玉のつっこみ。
「しっつれいねぇぇ!! 今回は危険な場所じゃないしお金もほとんど使わないわよっ!!」
「へいへい、で・何処行くさ?」
蝉玉専用のヘルメットを渡しつつ聞いた問いの答えは、
「海っ!!」
「はいぃ!!?」
「海よ、海に行くの!」
目を輝かせて言われても、ここから海のある場所へ行けば夜が明けてしまう。
「…ほんっとに行くさ?」
「…いやならいいわよ、私一人で行くから…」
「そーは言ってねぇさ、今から行かんでも…」
「今からじゃないとダメなの!! 絶対今から!!」
天化が観念したようにため息をつくと、蝉玉の笑顔にはみるみる笑顔が戻ってくる。
「はいはいっ、早速出発ー!!」
彼女はさっさと後ろに乗り込み、無理やり渡された地図を見て、天化は再度大きくため息をついた。
意外に道路が空いていて(意外も何も真夜中だったからなのだが)、予定より一時間ほど早く着いた。
「はぁぁぁぁぁ、つっっかれたー……」
けれどまぁ、これで彼女も満足するだろう、と思いきや。
「…蝉玉?」
彼女はかなり不満そうな顔で向こうの海を見つめている。
「おい…これ以上何が欲しいさお姫様…」
「……天気予報」
「へ?」
蝉玉は思いっ切り大きく息を吸った、天化は思わず耳を塞ごうとしたが、
「天気予報の大嘘つきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
間に合わず、天化はしばしの耳鳴りに悩まされることとなる。
彼女は時々思いの全てをぶちまけるようにこうやって大声を出す、いつも唐突のことで予測ができず、たいてい彼女の側にいる天化は必ず耳鳴りに悩まされるのだ。
「てっ…」
ようやく回復してきた天化は不可解だった言葉を反芻する。
「天気予報?」
「天気予報で言ってたのよ、今日今ごろの時間にここら辺で雪が降るって! 言ってたの! 絶対絶対言ってたの!!」
だだっ子が叫ぶようにわめき散らかす蝉玉を何とかなだめながら、
「…つまり雪が見たかったんさな?」
「…雪だけじゃないもん」
ほとんど涙声の蝉玉、天化もさすがに焦りだした。
「海も見たかったの…小さい頃にッ…雪がッ…海に溶ける…のっ…て…スッゴク…きれい…だった…から…ひっ…く」
こぼれだした涙を見られたくないのか、蝉玉は天化にしがみついて顔を伏せた。
「天化とっ…見たかった…の…、今日しか…ないって…思っ…たのぉ…これ…逃しちゃったら…来年になっちゃうよぉ…」
(…なるほどね)
「…蝉玉」
赤子をあやすように、背中を優しく叩きながら言った。
「もー少し待ってみようさ」
いつもの優しい声が、数倍に優しくなったのを聞いて、蝉玉は力無く頷いた。
半刻後。
二人は座り込んで、天化は後ろから蝉玉を抱き込んで、蝉玉は天化の膝に座って、お互い寒さから守るように守られようにして、目の前の光景に見入っていた。
「…天化」
「何」
「寒い」
「おい…目の前のことを言えよ…」
クスクス笑い合う二人の目の前には、
海と、それに溶かされる粉雪。
「ねぇっ、きれいでしょ?」
「ああ、…建物の中から見ればもっと寒くなかったかもしんねぇけどな」
日常的という程見慣れたものでもなかったし、神秘的という程たいそうで珍しいものでもない。
夜が明け始めた。
二人はお互いの熱を交わすように、口づけを交わした。

 

- 終 -


作者コメント>
私が書きたいんだっていう単語をたくさん使った自己満足の小説となりさがりました(おい) 一番使いたかったのは、『お姫様』ですね(アホ) うちの天化君は蝉玉の恋人兼執事です、あ・禁断の恋となってしまいますな、変えるか(大アホ) タイトルの意味合いは、今回の小説では蝉玉のわがままから事が発展してます、こんな我が儘日常的だってことです、(そうです、説明しなければわかってもらえない腐れ小説なのです!) 天化君はかなり蝉玉を甘やかしますね、今回…。

KAMIKAMII's COMMENT
ユーリ様より頂いた天化×蝉玉小説です。下僕、いやちがう、執事天化がかわいいです! 内容から察するに、ふだんは蝉玉にぶんぶんぐるぐる振り回されているんですね(笑) ってここはほんとは蝉玉がかわいい!というべきなのでしょうか。……きっとこの二人って、はたから見るとバカっぷる全開?(笑)
ステキな小説をありがとうございました。
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