FROM YUBA-sama

「光の生まれるとき」

ここは青峯山紫陽洞。
「天化。そろそろ行ってきてくれないか?あれ」
トレーニングを終えたあと、道徳が突然言う。
「……あれ?…あ、ああ。わかったさ。明日でいいさ?」
「ああ」
「あれ」というのは、道徳が月に一度、天化に頼んでいる買い物のことだ。日用品はともかく、スポーツドリンクの減りが激しい紫陽洞では、こういったことも無理からぬ話である。
「あ、コーチ。他に何か買っとくもん、あるさ?」
「ああ、それじゃ乾電池と…赤のボールペン頼むよ」
「数は?」
道徳は腕組みをして考える。
「乾電池は単1で2個……いや、この際だからまとめて買っとこう、目覚し時計用だしな。ボールペンは1本でいい」
天化はうなずいた。
「それだけさ?」
「ああ、それだけだ。あと、いつものアクエリアス120本だな。それと…」
そこまで言って、道徳は悪戯っぽい笑顔を浮かべる。天化は、不審そうにそんな師を見やった。
「…それと、何さ?」
それを聞いて、道徳は笑う。
「お前が一番分かってるだろ。お前の買い物なんだから」
「…え?何で知ってるさ?」
別に知られて困るようなことでもないが、それでも話題にしたことはなかったはずだ。なぜ、知っているのだろう。
「俺はお前の師匠だぞ?……まあ、お前が言ってたからだよ」
「………は?」
「寝言で、な。『絶っっ対、あの皮ジャン買ってやるさあああっっ!!!』って。すごかったぞー。俺の部屋まで聞こえた」
「そ、そうさ……」
(ね、寝言なんか言ってたさー?!)
焦る天化に道徳は言った。
「明日は早いぞ、もう寝ろ」

夜が、明けた。
朝食を済ませると、天化はさっそく出かけた。雲の間を抜け、黄巾力士は町へと近づいてゆく。
(いい眺めさ…)
天化は大きく深呼吸した。
(誰かと一緒に来れば、もっと楽しかったかも……でもまあ、買い物につきあわせるのも悪いさね)
町に着いた。とりあえず、道徳から頼まれたものを探す。
(まず、乾電池か…まとめ買いしろって言ってたし、とりあえず10個くらい買っとくさ)
(次に赤ボールペン…あ、こっちの方が少し安いさ。これにするさ)
(あと、アクエリアス120本……重いさ…でも、いつものことさ)
店の前で、ひと月ぶりにその重さを思い出す天化。その肩を、誰かがぽんと叩いた。
「おはよ、天化」
「っっっでえええっっ、蝉玉っっ?!」
「何よ。いくらあたしが超ド級美少女だからって、そんなに驚かないでよねっ!!」
「そっ、そんなんじゃないさっ!!いきなり現れたからビビっただけさ!!」
「あら、そう。って、あんた何してんの?買い物?」
蝉玉は、あくまで明るい。
「そうさ」
「ふーん、おつかい?乾電池やボールペンなんて」
「……何で知ってるさ?」
ふふ、と少し得意げに笑う。
「決まってるでしょ」
「…………つけてたさ?」
「うん」
「…………」
(そういやコイツ、元スパイだったさ…)
「次は何買うの?」
「………アクエリアス120本さ」
「………そんなに?」
蝉玉が、さすがに呆れたように言う。
「悪いさ?」
天化も言い返す。
「別にっ!!…でも、天化はアクエリアスかぁ」
「へ?」
「あたし、ポカリ派だから」
(ああ、そういう意味さ…)
紫陽洞では、スポーツドリンクといえばアクエリアスだった。天化が弟子入りする前からそうなのだと、いつか聞いたことがある。
(飲んだことないさね)
「ま、アクエリアスもイイ線いってるけどねっっ!!やっぱあたしはポカリ派よ」
「ふーん…じゃあ、今度ポカリも試してみるさ」
「そうね。あんたはそうすべきよっ!!!」
(偉そうに言うさ…)
でも。何故か、悪い気はしなかった。

「…………重いさああああっっ!!!」
やはり、アクエリアス120本はキツかった。蝉玉が見かねて手伝ってくれたが、それでも重いものは重い。120本全てを黄巾力士に積み終えた頃には、すでに太陽が真上に昇っていた。
(暑いさ……喉渇いたさ)
天化は山と積まれたペットボトルを見上げた。だが、これは道徳から頼まれたものだ。当然、飲むわけにはいかない。皮ジャンのことを考えれば、自分で買うのも無理だ。
(我慢するさ。いつもいつも欲求が満たされるとは、限らないさ)
そこまで考えて、天化はふと蝉玉の視線に気づいた。
「蝉玉、どうしたさ?」
「天化、喉渇いてる?……もしそうなら、これ…さっき買ったんだけど、あげようかなって思って……」
「え?」
「………飲みきれないから。半分残ってるの、もったいないでしょ……」
「あ…」
「……ポカリ。試してみたら?」
言うなり、ボトルを投げてよこす。放られたボトルは、派手に中身を躍らせつつ、放物線を描いて天化の手に収まった。
「……『ありがとう』は?」
「……あ、ありがとさ…」
とりあえず礼を言ってから、天化は改めて考えた。
(喉カラカラさ……。でも、これを飲むってことは……せ、蝉玉と間接キ…)
自分は今、どんな顔をしているのだろう。
「ちょっとっ!!」
突然の蝉玉の声に、天化はふと我に返った。
「な、何さ?!」
蝉玉は顔を赤くして、一気にまくしたてた。
「のっ、飲んだら?!疲れてんでしょ?!ポカリだってねぇ、吸収率はアクエリアスに負けてないんだからっっ!!あ、あたしはあんたのためを思って言ってあげてんのよ?!それとも何?!あたしのポカリは飲めないっていうわけ?!つ、つまんないコト気にしてないで、飲むならさっさと飲みなさいよこのボケェッ!!」
(……蝉玉の方こそ、気にしてるのがバレバレさ……)
天化は思ったが、口に出すのは避けた。そしてボトルのキャップを取ると、ごくごくと一気に飲みほした。口をつける瞬間、彼はふと、こそばゆいような気恥ずかしいような、なんとも形容しがたい思いにとらわれた。今、自分はその思いを、彼女と共有しているのかもしれなかった。
(なんか、不思議さ)
「用はもう、済んだんでしょ?帰らなくていいの?」
飲み終わった天化に、蝉玉はやや早口で言う。天化としては、勿論まだ帰るつもりはない。自分の買い物が、まだ残っている。
「いや、まだ帰れないさ。俺っちも買いたいもんあるし」
「え、何?何よ?」
やや会話のペースが戻ってきたことに、内心安堵しつつ蝉玉が聞く。
天化は、例の皮ジャンのことを話した。
「……ってワケさ」
「へー。じゃあ、あたしも行こうかなあ。あたしもねぇ、ちょっと服見たいのよ。一緒に行っていい?」
「ああ、いいさ」
二人は並んで歩いた。色々なことを話しながら。この時間を、このうえもなく暖かいものに感じながら…。

「あ!」
店の近くまで来た時、突然蝉玉が小さな声をあげた。
「何さ?」
天化が聞き返す。
「ほら、見て!あの猫、かわいいっ!!」
一軒の小間物屋の店先で、猫が丸くなって眠っていた。そばには子猫が、母猫に寄りそって、やはり眠っている。
「ね?」
「ああ…」
自然と二人とも笑顔になる。
その時。
どんっっ!!と音がした。続いて、何かが砕ける音。
天化は、自分が誰かとぶつかったことを知ったが、さらにその相手が抱えていた「何か」が、見事に割れているのを見てさすがに慌てた。
「だっ、大丈夫さ?!」
「え、ええ、私は…」
相手は、とある家の女中だった。抱えていたものは、主人のいいつけで買ってきた花瓶だという。
「俺っち、弁償するさ!!その花瓶、どこで買ったさ?!」
女中にその店まで案内してもらい、二人は急いだ。幸いにも、その花瓶はまだ店にあったので、天化はすぐにそれを買って女中に渡した。女中は、何度も頭を下げて帰っていった。
「蝉玉、帰ろう。これ以上ここにいたって仕方ないさ」
そう、仕方がないのだ。花瓶を弁償した天化には、もう欲しいものを手に入れるだけの金は残っていない。が、蝉玉は明るく言った。
「行こ、天化」
「……え?」
「皮ジャン買いに」
「は?」
(何言ってるさ?)
不審顔の天化に、蝉玉は笑顔で言った。
「お金、足りないんでしょ?だったら、その分はあたしが出してあげる」
「はぁ?!」
「いいから!!だって、欲しかったんでしょう?」
蝉玉は、天化の腕を引っ張って走り出す。
「で、でも…」
「売れちゃったらアウトよっ!!」
「………」
そして結局、天化は蝉玉の提案に従うことになるのである。
天化は、欲しかった皮ジャンを手に入れた。
(やっと買えたさ……あー、やっぱイイさぁ!!)
天化は喜んで言った。
「蝉玉、感謝するさっ!!この借りは必ず返すさ!!」
蝉玉は、代金の半分近くも肩代わりしてくれたのだ。
「どういたしましてっ!!……あ、そうだ。天化ちょっとつき合ってくれる?」
「………?」

天化は疲れていた。
(ったく、さっきから取っかえ引っかえ……いい加減にしてほしいさ)
そこへ響く、はずんだ蝉玉の声。
「ねえねえ、これどうっ?!」
蝉玉の試着は、すでに2時間以上も続いていた。
長い。
長いが、どれもこれも似合っている。だから、強く言えない。
天化は心の中で思う。
(長すぎるさ!!………そりゃ、ちょっとは……かわいいけど…)
目の前で繰り広げられる、蝉玉のファッションショー。鑑賞者は、天化ただ一人。
嬉しいような、そうでもないような……
ぶつぶつと天化が呟いていると、蝉玉が突然言った。
「そうだわっ!!やっぱ、物で返してもらおうっと」
「は?」
「だから、あたしが貸したお金のことよ。現金じゃなくて、物で返してちょうだい。たとえば…そうねえ、ここの服とか」
「わ、わかったさ」
(あ、でも……どんなのを買ったらいいさ?)
天化ははたと困った。当たり前だが蝉玉に合うサイズなどわからない。型や色の好き嫌いだってあるだろう。
考え込んでいる天化に気をきかせたのか、蝉玉は言った。
「あたしがこれから、気に入ったのをいくつか試着してみせるから、その中で一番あたしに似合ってるヤツ選んで。それを買ってもらうわ」
「そ、そうさ?」
天化はほっとした。まさに天の助けである。
「天化、これどう?
「んー、結構似合ってるさ」
「じゃあ、これは?」
「ああ…それも割といいんじゃないさ?」

「あ、蝉玉、それイイさ!!一番似合うさ!!その……ふわふわがついてるヤツ」
天化は声を張り上げた。
「そ、そう?……って天化、これはね。ファーっていうのよ」
蝉玉も、嬉しそうに声をはずませる。
「じゃ、それに決まりさ!」
「あ、ちょっと待って!」
蝉玉の声に、天化は振り向く。
「どうしたさ?」
「あ、あのね。やっぱ、こっちのにするっ」
蝉玉は、試着していたファーの付いたモスグリーンのジャケットを急いで脱いだ。そのまま、確か2番目に着たノースリーブのニットを手に取る。
「何でさ?そっちのふわふわの方が似合ってたさ」
天化は不思議そうに言った。
「い、いいのよこっちで…」
そう言うと蝉玉は、試着した服を元の場所に戻し始めた。
「………???」
わけがわからない天化。と、その耳に、バイトらしい店員たちの小声の会話が入った。
「あーあ、あれ返しちゃったねぇ」
「仕方ないわよ。高いもん」
「あれ以上の値下げは、ムリですよ。今だってギリギリらしいですから」
天化は、ようやく合点がいった。蝉玉の目を盗んで、そっと値札をめくってみる。
(た、高いさ……。やっぱ、あのふわふわがついてるせいさ?)
(まあ、理由はそれだけではないだろうが)確かに高値だった。天化の皮ジャンよりも、である。さっき蝉玉が示したノースリーブのニットとは、3倍ほども値が違う。蝉玉も、遠慮したのだろう。
(でも、やっぱりあのふわふわの方が似合ってるさ。あれを……着せてやりたいさ)
ああは言っても、本当はあのモスグリーンのジャケットの方が欲しいのだと天化はわかっている。
(あれを着て…笑ってほしいさ)
蝉玉の名残惜しそうな顔が、心に浮かんだ。
(あれを、買うさ……)
天化は、心の中で呟いた。

別れ際、蝉玉は天化に念を押した。
「いい?絶対に買ってよ、あのニット」
あのジャケット、とは、やはり言わなかった。天化も、言葉を返した。
「ああ。蝉玉が欲しがってるあれだろ?ちゃんと買ってやるから、安心するさ」
(あの、ふわふわのジャケットを、さ……。あっちの方が、絶対あんたに似合うさね)
そして、二人は別れた。

夜。
紫陽洞の師弟は、向かい合って食事をしている。
「……ってわけなんさ、コーチ。どっかいいバイト先知らないさ?」
天化は、今日一日の出来事(間接キスを除く)を道徳に話していた。
「そうだなぁ…。うーん、太乙のところなんかどうだ?工具とか、作りかけの宝貝をひたすら運ぶ仕事なんだが…。肉体労働は時給いいぞ。……ああ、おかわり」
道徳のさしだす茶碗を受け取りつつ、天化はうなずく。
「じゃあ、そうするさ。肉体労働なら、俺っちにぴったりさ!」
「よし、じゃあ食い終わったらさっそく電話してみよう。ああ天化、いつも通り皿洗い頼むな」
「わかったさ!」
満面の笑顔で天化は言い、師匠の茶碗にまぜご飯をしっかり山盛りにした。

天化は、自室で工作をしていた。蝉玉と分けて飲んだポカリの―――あの問題のボトルを、何やらカッターで切ったりしている。
(これに、貯金するさ…)
現在、天化の所持金はもちろん0である。彼は、例のボトルを貯金箱にするべく奮闘していた。
「できたさ!」
これであとは、バイト先が決まれば万全だ、と天化は思った。
「天化!」
道徳が入って来た。
「太乙が、お前なら喜んで雇うってさ」
そう言って、親指を立ててみせる。
「ほんとさ、コーチ?!」
天化の様子に苦笑しつつ、道徳は続けた。
「詳しい話は明日だ。もう寝ろ」
………実は、もう1つバイトのクチを知っていた道徳ではあったが、弟子思いの彼は、ついにそのことには触れなかった。
(何しろ、あの変人のところだからな……。最悪の場合、あの子があの子でなくなってしまうかも…)

「……ああ、もうこんな時間か」
紫陽洞の主は、壁にかかっている時計を見て呟いた。
(そろそろ、俺も寝るか……)
自室へ向かおうとして、ふと道徳は足を止めた。天化の部屋に、明かりが浩々とついている。道徳は、とりあえずドアを開けた。
「天化、まだ起きてるのか?」
返事は、ない。紫陽洞の主は苦笑した。
(掛け布団くらい掛けろ、まったく。………でもまあ、今日は暑いからな)
ぐっすり眠っている弟子に毛布を掛けてやった仙人は、ふと、棚の上に置かれているものに目を留めた。
(ああ、これか。蝉玉くんがおごってくれたポカリの……)
天化は確か、「蝉玉が買って、自分にくれた」と言っていた。
仙人は、しばしこの風変わりな貯金箱をしげしげと眺めた。そして明かりを消すと、足音が響かないよう注意を払いつつ、いったん部屋を後にし―――――すぐに戻ってくると、ボトルを手に取った。
2、3枚のコインが、ボトルの中に落ちる。
チャリン―――――という音が、鋭く響いて。
―――――やがて、闇に消えた。
(ちょっと、甘やかしすぎかな……)
仙人は、貯金箱を棚に戻すと、そっと部屋を出た。

窓からは、あたたかい月の光。
星々は、きらきらと優しくまたたいている。
その光を身に受けて、ボトルの中にも輝きが生まれた。

天化は、依然として眠っている。
今、ここで起こっている光の競演にも、そして心に生まれた新しい光にも。
まだ、気づくことなく。

 

- 終 -


作者コメント>
………初書きです。ご覧の通り、救いようのないクズ文と成り果てています(滝汗)。何度となく加筆修正を行いましたが、どうしてもこれ以上は…(泣)。この小説には(すでにおわかりでしょうが)問題点がとても多いです(爆)。文章自体が稚拙なのは勿論、「ラヴラヴを目指したはずが、見事に失敗している」「あくまでも天蝉が主人公なのに、コーチが出張りすぎ」「価格の設定がいい加減」「タイトルが意味不明」「主役二人がコドモみたい(私の実体験が元ネタだから?初恋もまだなのに)」「『ふわふわ』のフレーズがしつこい」「大体これ、いつの話?」「いっそ、現代パラレルの方がよかったかも」などなど……もう、枚挙にいとまがありません(死)。
普段ほとんどしないだけに、買い物の場面に苦労しました。特に服は滅多に買わない(←体型がドラえもんなので、着られない)ので、二ッ○ンのカタログを参考にしてました(汗)。どれが蝉ちゃんに似合うかな〜と想像しながら(←変)。また、蝉ちゃんがポカリ派なのは、単に私がポカリ好きだからです(で、弟がアクエリアス派です)。そして、青峯山がアクエリアス派なのはきっと、コーチの方針です…オリンピック公式スポーツ飲料ですし(笑)。
 最後にかみか様、こんな駄文を引き取って下さってありがとうございました(返品可です。今ならまだ間に合います)。そして、ここまで読んで下さった皆様、心より御礼を申し上げます。

KAMIKAMII's COMMENT
ゆばさんより頂いた、天化×蝉玉小説です。ありがとうございました〜!!! 青春してますねぇ二人とも!(#^.^#) このあと天化は蝉玉にプレゼントできたんでしょうか? 太乙がバイト代に色つけてやってちょーだい。 しかし、ペッドボトルの貯金箱が涙を誘います。いや、こう、なんか貧乏くさいところが (笑) 苦学生っぽくてかわいいですv←なにげに弟子を甘やかしている道徳もv
ちなみに私はポカリものみますけど、アクエリアス派だったりします。道徳のところに弟子入りしましょうかね (笑)
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