FROM SUIRENDOU-sama

「欠けた月の泪」

本当は初めっから分かってた。
認めたくなくて、見知らぬ振りしてたけど。
だから、そう言われた時も、そんなにショックじゃなかった。
ただ、胸に大きな穴が空いただけ。
ただ、死にたいくらい哀しいだけ。
大したことない。
辛くなんか‥‥ない。
だって、涙が出ないもの。

 

「そっか。じゃあもう”ハニー”って呼べないよね」
私、上手く笑えてるよね?
泣き顔なんて見せたくない。
「お前のことは嫌いじゃねぇよ。その‥‥綺麗だし、好かれたのって
初めてだったから嬉しくねぇって言ったら嘘だし」
「うん」
初めて好きになった人。
全てを捨てれた。命さえも。
でも。
「でも、やっぱりオレは―――が好きなんだ」
あの人も片思い。私も片思い。
瞳には一人しか映れない。
昔からの残酷な掟。
最後まで、私笑ってられてたかな?


背後で音がして振り向いた。
振り向く前に煙草の匂いで、誰かは分かった。
何でこの人は私が辛い時にいつも近くにいるんだろう。
泣きたそうな時に限って側にいるから、泣けないのに。
その姿を視界に捕らえても、何も言わず黙って視線を戻した。
ずっと向こうにさっきと変わらず、小さく周軍の宿営地が見える。
人のざわめきが今は痛くて、離れたこの小高い丘まで来てしまった。
空はもう暗くなり始め、白い月が出ている。
そろそろ戻らなきゃいけない。
戻る?何処へ?
誰にも会いたくなかった。
でも、誰かに会いたかった。
彼も黙って、私の隣に立つ。
何か言おうとしてるのが気配で分かる。
でも、何も言わないでいる。
不器用な優しさ。
劉環の時は分からなかったけど、素直に出さない優しさなんだ。
私とは正反対みたい。


だけど、今はそれが痛いよ。

暫く、二人で風に吹かれてた。

 

最初に喋ったのはどっちが先だったか。
軽いやり取りのはずだったのに、いつの間にか
向かい合って口論になっていた。
いつもの口喧嘩が今日は止まらない。
こんなことを言うつもりじゃなかったのに。
天化は自分の不器用さを歯がゆく思いながら。
この人なりの優しさだって分かってるのに。
蝉玉は自分の心の弱さを怒りながら。

「何であんたにそんなこと言われなきゃなんないのよ!!」

   お願い

「おれっちはお前を心配して‥‥!!」

   チガウ

「別に頼んでない!何で私にかまうの!!」

これ以上優しくしないで これ以上踏み込んでこないで

「ほっとけないさ!!」

   ホントウハ

「どうして!!」

涙が出ちゃう 私が私でいられなくなる

   アンタガ「好きだからさ!!」

 

「え‥‥?」
「あ‥‥」
一際大きな声で言い放たれたその言葉に、呆然と蝉玉は天化を見上げた。
天化は天化で怒鳴るように言ってしまった告白を思いっきり後悔した。
こんな時に言うのは卑怯だと。
それでも、無理した作り笑いが嫌だった。
素直に泣くよりずっと痛ましげだった。
太公望に教えられて、何かしたくて側に来たのに。
また何も出来ない。
母上が死んだ時も何も出来なかった自分。
劉環の闘いでも、何も出来なかった自分。
守りたいのに。

頭に血が上る。
鼓動が早くなる。
うるさいくらいに躰中の脈が鳴っている。
そのくせ、周りはさっきの怒鳴り合いが嘘で、
音がなくなったかのように、静かだ。
と、蝉玉と視線が合った。
僅かに赤く潤んだ大きな瞳に、自分が映っている。
それを見た瞬間。
どきん
天化は自分の心臓が大きく跳ね上がったのを感じた。
そして何かが爆発した。
考えるより先に体が動いた。
蝉玉の腕を掴み引き寄せる。
声をあげる暇さえ与えないほど素早かった。

そして、抱き締めた。

「天‥‥」
それは余りに華奢だった。
自分とは全く違う生き物のように柔らかで、
少し力を込めれば壊れてしまいそうだった。
「何で無理して笑うさ」
「そんなこと‥‥」
「すぐ分かるさ」
いつも見てたのだから。
「全部受けとめるから、無理すんな」
「私‥‥酷くない?こんな時だけすがりつくなんて」
「こういう時に助けたいさ。おれっちにまで気を使わなくていい、
傷つくなんて思わなくていいさ」
そう言って、蝉玉のむきだしの肩に手をそっと置く。
直接感じる暖かさが嬉しいくらい痛くて。
蝉玉は嗚咽を漏らした。
それでも、唇を噛んで止めようとする。
天化は自分の頭くらいにある、蝉玉の髪を止めていた紐をほどいた。
シュル
微かな音をたてて、戒めが解かれる。
ふわり、と宙を舞うようにして、柔らかな栗毛が肩に背中に降る。
「いつも堅く縛ってたら痛いさ?泣きたい時は泣けばいいさ」
「っ‥‥!!」
天化が言ったと同時に、蝉玉の瞳から涙が一滴溢れ落ちた。
そして、堰を切ったように。

泣いた。

天化のジャケットを掴んで、体を震わせ、ただ泣いた。
子供のように、ただ好きな人に振られた少女として。

やっと‥‥泣いた。
天化は再び、今度はゆっくりそっと、抱き締めた
傷つくほうが、何も出来ないで見てるよりずっとマシだ。
いつか涙だけじゃなくて、本当の笑顔を向けさせる。

あんたには、笑ってる顔のほうが似合うから。

 

- 終 -

 

KAMIKAMII's COMMENT
翠蓮堂さまからいただいた小説です。ありがとうございます〜(*^_^*) もうもう天化ったら〜いい男ですぅ★ きゅっだなんてきゃっ(#^.^#) 私、ジャンプの方でもこういう展開希望ですわ・・・。でもジャンプ じゃ無理だろうなぁ。花とゆめだったらぜんぜんOKいけいけGOGOなんだ ろうけど (笑) 蝉ちゃんには天化に泣き顔やすね顔や怒り顔や意地悪顔 (いや、これはいいや/笑)より、花が開くような笑顔をむけて欲しいです よね〜っ(^_^) 蝉玉っ天化にならいくらでもすがりついていいのよっ!! 天化っあんたもぼさっとしてないで、さっさとさらっていっちゃいなさ いっ!!
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