FROM NAGI-sama

「一生をかけて愛した人」

春。黄氏は、朝から花嫁衣装の準備をしていた。
「綺麗よ、黄氏」
賈氏が目を細めて言った。黄飛虎のもとに嫁いできてから、本当の姉の様に慕われてきた、本当の妹のように愛でてきた黄氏がとうとう嫁に行く日が来た。
「やめてよ、義姉様。恥ずかしい。」
黄氏が頬を赤らめて言った。
「いいわね。お相手は紂王様。お優しく、気高く、雄々しいあのお方なら、あなたをきっと幸せにして下さるわ。私も安心」
黄氏が、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに顔をうつむかせた。
「おい、まだか?」
扉の外で黄飛虎が声をかけた。落ち着いたふりをしているが、妹の花嫁姿を早く見たいのが本音だろう。
「はいはい、今できましたよ。どうぞ」
黄飛虎が恐る恐ると言った表情で扉を開けた。
「綺麗だ…」
「有り難う、兄さま」
今まで、一緒に暮らしてきた妹が、自分の手から離れていく。賈氏は正月に会えるけれど、自分は、そうめったには会えなくなるだろう。そんな事を考えていたら、涙が出てきそうになった。
「兄様、泣いてるの?」
黄氏があっけにとられた顔で訊いた。
「馬鹿ね、あなた…。」
賈氏もいい加減あきれたようだ。
「黄氏はこれから黄貴妃と名乗り、副皇后として紂王様にお仕えすることになるのよ。とても名誉なことです。もっと胸を張って、誇りを持って。あなたの妹が皇帝の妻になるのよ。」
「分かってらぁ!んな事ぐらい!」
 その割りにはまだ目が潤んでいる。
「それに、私たちにとってはずっと、『黄氏』のままですよ。ね、黄氏」
「ええ、義姉様」
 それを聞いて、黄飛虎はやっと目から潤みが消えた。
「元気でいろよ」
「分かってる」
「体に気を付けろよ」
「分かってる」
「病気するなよ」
「さっきから言ってることは全部同じじゃない。いい加減あきれてしまうわね、兄様には。」
黄氏がため息をついた。
「お時間にございます」
侍女が頭を下げて部屋へ入ってきた。
「分かりました。もう出させます」
おろおろしている黄飛虎に代わり、賈氏が答えた。
外に出て、黄氏は輿に乗った。
「行ってらっしゃい。紂王陛下の妻としての誇りを忘れずにね」
「はい。義姉様」
「じゃあな」
「はい。」
そして、もう一度二人の方をしっかりとむき直して黄貴妃は言った。
「行ってきます」

 

やがて、輿は紂王の館へとついた。
出迎えてくれた皇帝は、凛々しく、雄々しく、気高かった。式が終わった後、自室に辞去してからの紂王は、さっきまでの威厳をそこないはしなかったけれども、とても優しかった。
(この人なら一生付いていける)
そう思った。なのに…。
数年が経った後、黄貴妃は悲劇の元旦を迎えた。
賈氏が目の前で身を投げたとき、憎らしかったのは、妲己。紂王には、哀れみの目を向けていた。
でも、愛していたのは、紂王陛下。身を投げたのは、黄飛虎のため、そして、紂王への愛の証明。
死ぬまで紂王陛下の妻であった、と。
自らの口で言いたかった。

 

- 終 -


作者コメント>
何これ…?紂王×黄氏? 後半(特に一番最後)どうやって終わらせればいいのか分からなくなってしまって、かなり無理矢理『紂王への愛』に結びつけた覚えがあります。まあ、あんまり気にしないで下さい(死)

KAMIKAMII's COMMENT
涼風凪さんより頂いた、紂王×黄氏小説です。ちょっと切ない小説をありがとうございました。お兄さま…兄弟は男ばっかり、息子も男ばっかり、となったら飛虎って黄氏の事かわいがってたんでしょうね〜。それだけに黄氏の死の報せはとても悲しかったんでしょう…。紂王は黄氏の事をどう思ってたんでしょうね。愛する人の妻であるという事は幸せ、といいがたい黄氏の人生。悲しい最後を迎えた彼女ですが、短い人生の中で女として、幸せな時間を少しでもすごしたと願いたいですね。
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