|
FROM
SATORU-sama
「熱望2」
愛しいと思っているのかは未だに分からない。
最初に感じていたものはとまどいだった。自分から見れば問題にならない程弱い癖に、物怖じしない明るさと気の強さ。または不用心に危地の中に入っていく危なかしさ。その時まで自分なりの規則の中で動いてきた「彼」の中に、その存在は入ってきた。
彼女は不思議だ。時折彼女はこちらを見て、微笑む。それだけで胸に「彼」の乏しい表現力では到底表現出来ないものがこみ上げてくる。
分からない。でも、守りたい。
目の前に扉があった。あの向こうに彼女がいる。
しかしそこに行くことはなかった。彼はいつしか目の前にいた男に自分の武器を渡した 相手は、剣を持った少年にも、怪物じみた小さな男にも見えた。
「彼女をたのむ。」
「何しているんだ。天化。」
「!」
天化は、宝貝を前に差し出した格好で目が覚めた。既に朝日が射し、兄の天禄が見下ろしていた。天化は頭をかいて、立ち上がった。
「…モグラに宝貝を渡す夢をみたさ。わけわからん。」
「それはいいが、ここは蝉玉さんの部屋だろう?」
「ちょっとお化けが出てさ。」
立ち上がった天化の足元で、ごとりと音がした。
兄弟が見下ろした先に、何かの欠片が転がっていた。
「なんだ。これ。」
「兄貴、触るな。これは宝貝だ。」
天化は欠片を拾い上げた。
「どこかで見たな、これ。誰のだ。」
じっと見ているうちに、天化の目の色が変わった。
「これは。」
背後で戸が開いた。天化は反射的に欠片を隠した。
「あっれ。」
最初に蝉玉の独特の髪型の先が現れ、続いて顔が出てきた。彼女はもうすっかり着替えている。明るい朝の陽の下の顔はすっきりとしていた。
蝉玉は天禄に気づいて挨拶した。天禄も礼儀正しく挨拶する。彼ら二人はあまり顔も見たことはないからお互いかしこまっていたのだろうが、蝉玉が日頃余り見せない表情をするものだから天化の胸は少しだけちくりとした。
天禄は気をきかせたのかさっさと歩き去った。天化はズボンの後ろポケットに破片を押し込んで、頭を掻いた。
「よく眠れたさ?」
「うん。でも、天化、ずっとここにいたの?」
「…だって、あんた、あんな気味悪い奴につきまとわれてて…。」
その瞬間、蝉玉は少し目を見開いて天化を見上げた。案外ふっくらとした唇がかすかに動き、結局声に出ることもなくうつむいた。そして、一言だけ言った。
「ありがと。」
天化はそのしおらしい態度に驚いた。蝉玉は少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「でも、大丈夫よ。とてもよく眠れたし。」
「あいつの夢でも見れたか?」
天化の口から、からかうような台詞が簡単に出る。多少の引っかかりがあっても、蝉玉が元気になることの前にはどうでもよろしい。しかし蝉玉は首を振った。
「ダーリンは出なかったけど。 とても気持ちよく眠れたのよ。守られているって感じで、安心できたわ。」
「そうか?」
蝉玉は慌てて言った。
「で…でも!もう、あたし、大丈夫だから!幽霊なんか跳ね返してやるから、心配しないでよ! あんただってこんなことやってたら身が持たないし。」
毎晩ガードしてやっても構わない、と天化は思ったが、言わなかった。
遠くから兄が呼ぶ声がした。朝食だ。天化は後ろポケットを押さえながら少し下がった。
「じゃ、飯だから。」
「あ、待って。」
「何?」
蝉玉は少し考えたが、思いついたように言った。
「ごちそう!!お礼に、ごちそうするからさ。夕飯時に来てよ!」
一緒に食事することになった。しかも蝉玉の手料理だ。食堂に行きながら、天化の頬は少し緩んだ。しかし服の中に欠片の感触もあって、その気分にいつまでも浸るわけにはいかなかった。
彼は自分の父親・武成王の執務室に入った。父親は机で木簡を読んでいた。
「おやじ。」
「なんだ。」
天化は机に宝貝の欠片を置いた。
「ス−スからなにか連絡はなかったか?」
「いや、太公望どのからは何も。」
「隠すとためにならないさ。おやじ。
モグラになにかあったさ。」
武成王・黄飛虎は眉をひそめて、読み終わった木簡を脇によけた。
「親を脅すのか、お前は。 大体太公望どのたちの作戦は最高機密だぞ。教えられるか。」
次の木簡を開ける。その端から、太公望の筆跡が見えた。天化はそれを引ったくった。
「こらあああ!!」
そのまま執務室から飛び出す。庭を突っ切り、塀をよじ登りながらふと振り返ると、飛刀を持った飛虎がすごい形相でぴったり背後にくっついてきていた。少年の身体を生かして池に潜り藪を潜ってどうにか撒く。植え込みの影でどうにか一息つき、木簡を開いた。確かに太公望の、しかし達筆の彼らしくないよたついた文字が現れた。読むうちに、天化の顔色が変わっていった。
(太公望重傷。
土行孫行方不明。)
「うん。」
いいにおいが立ちこめている。
蝉玉は人間出身の仙道向けの料理を味見して、満足そうに頷いた。
天化達コンロンの仙道達はあまり食べる楽しみは知らないが、妖怪仙人達の間で暮らしていた蝉玉は肉(この場合味見はできないが)でも野菜でも工夫しておいしくすることが身についている。これは一晩守ってくれたことへのささやかな礼だ。しかしこれ以上周囲に迷惑をかける訳にはいかないからこれからは自分で立ち向かわなくてはいけない。
「その男」の凶悪な面影が浮かび、彼女の表情が曇る。しかしその暗雲を吹き払うようにドアの前に座っている天化の姿が浮かび上がった。
蝉玉は考えを振り払った。天化に頼ってはいけない。自分のことで、常に戦闘で傷ついている彼を振り回したくない。なによりも彼は夫ではないのだ。
蝉玉は気を取り直してまな板に果物を乗せて切る。とりあえず天化とのディナーを単純に楽しむ、ということに結論をつけて。
- 続く -
※「まだまだ続くかも・・」というわけで続くらしいので、完結してからコメントさせていただきます〜。でも続きがすげー楽しみっす!!!(^o^)/ By かみか
|