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FROM
SAKUMA-sama
「子供たちの悪戯」
「ほらまた、天祥!」
「い、痛い!兄さま〜」
日がいっぱいに当たる野営地の真ん中で。朝食の後、今日も黄家の次男坊と末っ子は、剣と槍とで稽古をしている。
のんびりとしたいつもの光景。しかしここのところ、天化は弟のちょっとした行き詰まりを感じていた。
「・・ああ?天化、あんた一体なにやってんの?」
「あ!蝉玉おねえちゃんっおはよう・・・っっ」
「こら、いいから!」
簡単に大きく注意のそれる弟をしかりつけ、天化が声の主を振り返る。
「おはようさんさ、蝉玉」
「おはよう。で何してんの、それは?」
首を傾げてなおもたずねられ、天化は手元を見下ろした。
「これ?・・は、天祥の姿勢直しさ」
後ろから両肩を掴んで、後ろに強く反らす。
天祥は槍の扱いが性に合うらしく、父親からおおかた仕込みを受けて成長していた。
しかしどうにも癖があるようで、構えが低く硬すぎるのだ。
基本は背筋をまっすぐにしてからの構えへの移行。だが、このところ続く実戦上で、小さな体を利用し小回りのきく戦い方を身に付けて動きまわるようになってから、天祥はこの辺がさらに崩れてきている。今が成長期というときにこれはさっさと直さないと、ということで、これだ。
「そんなんで姿勢なおるの?」
「多分。俺っちも昔やってもらってたさ」
「ふーん?あたしも剣使うけど、師匠にはやってもらわなかったなあ?」
「えーっ、そうなの?」
すでに涙目がちの天祥が、不満げに天化を見上げる。何だその目は、と手を離し、両頬を軽くつねったところで・・・
「ああーっ弟虐待してる!!」
いきなり背後から声が響き、腰のあたりに蹴りが入った。つんのめったものの危なく転倒は免れて、天化は後ろを振り返った。
「な、何するさ!」
暇げに現れたのは、武王・姫発。目の前でおはようプリンちゃあああああんっ、と蝉玉にタックルし、はいはいはいおはようっ、と顔面に肘鉄入れられて、ごろっと地面に倒れ込む。いつものことだが天化は、この光景にあっけにとられつつ、釈然としないものを感じている。
この隙に手から逃れた天祥が、姫発にかけよってしゃがみこむ。
「おはようございますっ、武王さま」
「はいおはようv 悪い兄貴に似ないでいい子だなあ天祥くんは!」
「ちょっと待つさ王さま・・・!誰が悪い兄貴さ、これは虐待じゃねえさっ」
「あれ違った? まあいいや、おっはよーんvv」
「ひ、人に足蹴くらわせといてまあいいやって」
「いやー俺手より足のが長いもんでさあ、肩たたくより早いっしょ」
ここで隣の女に笑われてるのは何故か自分だ。・・・別に、女がいる前でどうのと言うわけでもないのだが。
からからと笑う上司に気が抜けて、天化はため息をついた。
「姿勢直しか! ああ俺もよくやられたー、兄貴に」
天祥の頭をわしわしとなでながら、姫発が明るい声を上げる。
「俺も姿勢悪かったからなあ、でも痛いんだよな」
「武王さまもやられたの?」
「そう! おかげでこの通り背が伸びたのっ」
「本当? 僕もそのくらいおおきくなるかなあ?」
「おっ? なるなる!! よおぉし、じゃあ直々に兄ちゃんがやってやろうっ」
「えーっ!?」
何だかんだ言って姫発は子供好きだ。早速背中の真ん中に膝を当てがい、肩を押さまえるようにして軽く体を宙に持ち上げてしまう。
ああなるほどあれのが効率いいな、と変に感心しつつ、ふと天化は蝉玉を見やって・・・
そういえば。
「なあ王さま、それって女にやっちゃ駄目なもんさ?」
「は?」
「えっ?何なに天化、そうなの?」
「・・うー・・ん」
確かずっと昔に、女の子にこれをかましたことがあったような。 結果それはやっちゃいけないことだったと反省した記憶があるのだ。
「多分、ね」
「ええー!?何それあんた差別くさい!!何で!?」
「いや、とにかく駄目みたいで・・・なんでだっけな・・・」
「女にやるんだから痛くすんなとか、そういうことじゃ・・」
姫発が、ふいに言葉を詰まらせた。
「・・あれか?」
「何かわかったさ、王さま?」
「あ、いや」
「気になるじゃない、何よ?」
「・・別にやって害はない、かな」
「??」
「じゃ、やってみれば?」
地面に下ろされて、低いところから天祥の無邪気な声があがる。途端引きつった姫発の顔には誰も気づかない。
「ん。じゃあ・・」
天化がすぐ横の蝉玉を見返った。
何の気なしに肩に手を伸ばしたところで・・・ じかに触った、柔らかく温かい感触に、思わずどきりとして硬直しかける。
「・・失礼、しますさ」
何をうろたえてる自分、と心のうちに呟きつつ、一回り小さいその身体をそっと胸元に引き寄せる。
「・・うん」
すぐ間近から細く声が返ってきて、さらに心臓が跳ね上がる。
肩に手をかけたまま片膝を上げて、背中に押し当てる。 そのまま肩を引いてやって、少し踵の浮く蝉玉の上体が反った。
何やら顔の赤い天祥に、姫発がそそくさと目隠しする。
ちょっとまずいくらいの速い脈打ち。逃げ腰になりそうなほどに。 もっとこう布のある服を着ていてくれればよいものを、慣れない肌に触っているというのが異感覚で・・・本当に、参る。
こんなのがどうして同じ生き物なんだろう。手触り違う色、頬にあたる髪も掴んだ肌も、近すぎてこそばゆい。
それは自分と違う体。 重ならないままの息遣いが全部腕の中にある。
なじんだとたんに違ってゆく体温。 熱い頭が聞き取ったのは、呼吸の時のような小さな音。
・・・やば、痛いか。
時間にして十秒足らず。天化は手を離していた。 やかましすぎる鼓動に負けて。
手指に相当力がこもってしまっていたような気がして、きまりが悪い。
はずみで一歩半ほど前に踏み出し、蝉玉が振り返る。
とっさに天化は、子供のように慌てて両手を背後に隠してしまっていた。
この際隠すべきは、火照って赤い自分の顔だということはわかっていたのだけれど。
「何よ、全然たいしたこと・・・」
「!」
蝉玉が、ぱっ、と胸元ちかくに手をやった。
顔がみるみるうちに赤くなってゆく。
「・・、蝉玉?」 どうしたさ、と言おうとした、次の瞬間。
「・・っっいやあああああああっ!!!」
ばきどごっ、と猟奇的な音が響いた。
「兄さま、武王さま、大丈夫?」
天祥が膝をついたその先、土埃の収まりきらない地面に転がる若者が二人。
「・・・王さまの大嘘吐き・・・何が害がないさ・・・」
「俺にはないはずだったもんよ・・お年頃なら気づけよ鈍・・・」
「だ、だからって何で僕のところに来るんですか!?」
「その顔と声でいうのやめてよっ!! ほら気持ち悪いんだから早くして」
いきなりとっつかまってテントの陰に連れ込まれ、背中を向けた蝉玉に促されている絶世の美女。
またさしたる用もなく妲己に変化していた楊ゼンだ。顔を真っ赤にしている。
「何してんの!?ちょっとブラの後ろ留めるだけじゃない」
「待ってください!そんな、いくら変化してたって僕は」
「元が何だろうが今は妲己なんだから問題なし!! 脱がせとか言ってないじゃん、いいでしょ!?」
女性とはこんなものなのだろうか。
うらみがましく落とした目にとまったのは、細い肩にうす赤くついた指の跡。
楊ゼンは頭を抱えてしまった。
「はあぁ痛かった・・」
あごをさすりつつ天化が身を起こす。打たれ強いはずの姫発は腹を抱え地面にのびたまま、声を上げた。
「あれをお前女にやったことあったんだ?」
「や、やかましいさ!」
「俺だってやったことなかったのになー、ふーん」
「黙っとくさ王さま!!」
恥ずかしさのあまり、天化の声は泣きそうになっている。
「女子にやっちゃイケマセンとか言われなかったのかよ」
・・・あれ?
「・・? どうかしたか」
「そういえば俺っち、これ誰に教わったんだっけ」
「剣をならった師匠さんじゃないの?」
「いや、コーチよりもっと前だと思う・・・けど、あれ?親父か?」
「え?でも僕お父さんからあれやってもらったことないよ」
「・・・??・・・・」
大体いつだったっけ?最初やってもらったのは。
『うわあああっどうした天化!? どうしよう、ってちょっとねえどうするよこれ、聞仲!?』
『・・!? な、なんてことを・・! お前という奴は幼子相手に手加減というものを知らんのか!!』
『えっ、だ、だってあの程度ならお前全然ぴんぴんしてたじゃねえか』
『馬鹿者!! 人の甲冑をいくつ壊したと思っている!!!』
「・・・思い出せないさ」
おかしいなあ、と考え込んでしまった天化を見上げ、姫発がにやりと笑った。
「いいねえ、必殺技って感じ」
「!!」
ひょい、と飛び起きて、天祥の背をぽんと叩く。
「よーしバラかしたる、うら行くぜっ」
「なっ、ちょ、ちょっと待つさ!!」
今日も妙に平和な周軍の一日のはじまりであった。
- 終 -
作者コメント>
こうして後、折々危なっかしすぎる黄家の養育を見かねた聞太師は、こっちの教育指南役までつとめる羽目になってしまいましたとさv 聞兄さんを見ているといつも「姿勢が悪ーい!!」と思ってしまうので、そこからできた半実話ストーリーです。何がロシア公立雑技団の練習の真似じゃあっっいたかったぜよ親父! 今度肩揉みでリベンジしてやる(ガキか)と言いつつ今まで忘れてました。私ってば天化(ハイ、やらかしました。女に。爆)
蝉ちゃんはどうも天化と姫発のダブルで絡ませてみたくなるんです。あと動き回る天祥くんもね。
しかしオチてないですねえ。前半切って勘違いモノにでもすればよかったんだろうか・・・
かみかみーさま、ごまかしに発芽期(NOT初書き)天祥くんはささげます(そんなん嫌スか・・)いかがだったでしょうか。
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