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FROM
RYOU-sama
「※無題」
空には細い月が架かっていた。
まわりの紺碧の空を、ほのかに淡い光が暈かす。
── キレーだなぁ・・・
蝉玉は岩場に座って、それを見上げていた。
思い切り泣いた後なので、目元がひりひりして痛い。
けれど、何かすっきりしていた。
確かに彼のことを、好きだったのだと認められるからだ。
どれくらい経ったのだろうか。
不意に人の気配がして、蝉玉は振り返った。
そしてそこに立っていた少年を見て、苦笑する。
「・・・座れば?」
かける言葉に困って立ちつくす天化に、蝉玉は言った。
天化は蝉玉の苦笑に戸惑って、そこに立ったまま訊いた。
「なにか、あったさ?」
「・・・なんで」
意地悪く聞き返してやると、天化は困ったようにうつむく。
蝉玉はなんだか妙に笑えてきて、肩を震わせた。
「失恋したのよー、気の利かないヤツねっ。ばっかみたい・・・わかってたのにさ、ハニーがあたしのこと、見てないことなんて」
「・・・蝉玉・・・泣かないさ?」
「もう泣いたからね」
天化はもどかしさを感じた。
彼女が泣いていることにも、自分は気づけなかったのだと。
彼女が弱さを見せられる相手でありたいと願うのに。
蝉玉には、天化の心情が手に取るように解っていた。
彼はいつだって愚痴を聞いてくれた。一番近しい人間だった。
けれど、今回だけは。
彼の元で泣くわけにはいかなかったのだ。
「蝉玉・・・俺っちじゃ、力になれないさ・・・?」
蝉玉は小さく笑った。
「そうだって言ったら、どーすんの? アンタ」
傷ついた表情を押し隠そうとする天化を見て、蝉玉はなんだか意地の悪い嬉しさを覚える。
「・・・それでも、そばにいるさ」
「へ・・・?」
「お前が、嫌がっても」
「・・・どーゆー意味? ソレ」
天化はまっすぐに蝉玉を見ていた。
「どうして一人で泣くさ?」
蝉玉は涙ぐみそうになって、唇を結んだ。
「・・・だめだから」
「どうして」
「どうしても」
泣くことは彼女にとって、過去との決別だった。
全てを、彼を愛した自分の心を受け入れて、前に進むための。
もうすでに自分の心が、別の人間に向けられていることを、認めるための。
「蝉玉・・・」
「だって。だってさ・・・」
素直でない自分を、彼女は自覚していた。
けれど今度は間違えたくなかった。
本当の言葉を伝えたかったから、一人で泣いた。
上手く言葉に出来ずに、蝉玉はうつむく。
地面に膝をついて、その細い体を、天化が後ろから抱きしめた。
「なによ・・・?」
「好きさ」
天化の言葉に、蝉玉は驚いた。
振り返ろうとしたが、彼はきつく彼女を抱きしめてそれを許さない。
「お前が、俺っちを見てなくても、あのモグラのことを想ってても、一番近くにいるさ」
「・・・天化、あたし」
「強く、なるさ。お前を守れるように、お前が頼れるように」
気持ちは上手く伝わらない。
十分に、蝉玉は天化に頼っていた。
けれどそれでも、天化はまだ足りないのだと思う。
蝉玉はそれがもどかしくて、自分を抱きしめる天化の腕を抱いた。
「ばっかねー、アンタって」
「・・・蝉玉?」
「いーわよ、一緒にいたげるわよ。ほんっと不器用なヤツね! あたしフラれたばっかだって言ってんのに、こんなコト言わせるんだからっ」
勢いよくまくし立てて、蝉玉は天化の腕に顔を埋めた。
「・・・一緒にいたげるわよ。元始天尊みたいなよぼよぼのしわしわになるまでさ・・・」
天化は答えない。蝉玉は顔を赤くして彼を顧みた。
「ちょっと、何か言いなさいよっ」
「・・・・・・・いや、その」
顔を真っ赤にして、それでも蝉玉を抱きしめる腕を放そうとはしない。
「蝉玉・・・好きさ。お前の・・・気持ち、知りたい」
やっと絞り出した一言に、蝉玉は小さく笑う。
けれど答えてやらない。
しびれをきらした天化が顔を上げたら、にっこり笑って言ってやるのだ。
悔しかったら言わせてみなさい、と。
- 終 -
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