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FROM
RIE-sama
「春雪」
「あ、兄さま、あれなんだろう!。」
子供らしい、少し甲高い声が響いた。
天祥だった。
空を指差し、なぜかとても驚いている。
剣を青眼に構え、目を閉じ精神を集中させていた天化は、弟の大声に少しびくりとすると、慌てて振り向いた。
「どうした!?天祥。」
一応、今は戦の真っ只中である。何があるか分かったものではない。
特に、この異世界とも思える空間においては。
呑気な弟の出す楽観的な声にさえ、少々敏感になってしまうのもしょうがないという気もする。
「兄さま、あれ見て。」
天祥は天化を見ようともせず、ただ空を見詰めている。
天化はすこし眉間に皺を寄せ、何事か、というような顔をしながら、あれ?・・・と天祥の言葉じりを反芻して、空を見た。
天化も固まった。
「な、何さ、これ。」
天化の黒い瞳がとらえたのは、白く小さく舞い散る多くの物体。
それぞれ、ゆっくり、ふわりふわりと落ちて、地面につき、やがて消えて行った。
手のひらを広げると、その上にもそれは姿を現し、一瞬にしてそれを消滅させた。
「ああ、これ、雪よ。あんた知らないの?。」
横を見ると、いつの間にか、蝉玉が立っていた。
「ユキ・・・?。」
天化は怪しいものを見ているかのような目で、蝉玉を見た。
知らない単語を口に出して言うのは、なんだか痒い感じがする。
「そういえばここ数年見てなかったわねえ。あたしが見たのも、まだ道士になる前のことだったかな。」
蝉玉は嬉しそうに、空を見上げていた。
天化は、ふぅん、とまだ納得できない様子で呟いた。
「綺麗だねっ。これ。でも、触ることができないや。」
嬉しそうな、残念そうな声を、天祥があげた。それを見て、蝉玉が笑う。
「そうだねー。うん、すぐとけちゃうし。」
綺麗だけど、触ろうと思うと触れない。
現れるけれど、すぐに消える。
(なぞなぞに使えそうさ。)
まだ、その「ユキ」自体のことも詳しく知らないくせに、そんなことを思って、天化は小さく笑った。
だが、これがなんであるか、深く追求しないほうが、いいように思われた。
「ユキ」がなんなのか−?
(おふくろみたいさ。)
また、そんなことを、天化は思った。
もうここにはいない母の姿。
確かに似ているような気がした。
どこが?といわれると困るのだが、雰囲気が、なんとなく。
彼女は天化と同じく黒い髪をしていたけれど、この白いものを思わせるのはどうしてだろうか。
触ろうと思っても、触れない。
そういうところもどこか似ている。
−故人を想う時、どうして自分がここにいるのか、疑問に思う時があるよ。
そんなコトバを思い出した。
確か、いや、確実に、楊ぜんの言葉。
−でもね、多分それはね・・・幸せになるためなんだよ。その人の分まで幸せになるように、ってさ。
彼は微笑って言った。
−都合のいい話だけれどね。でも、そうが一番良い考え方なんだよ、きっと。
天化は瞳を少し細めた。
上からどんどん舞い下りる白い粉たちは、その一つ一つが母からの言葉のように思えた。
幸せになりなさい。
と。
この戦争の中で、自分が幸せになるなんて、考えたことがなかった。
幸せがどういうものなのか、よく分からなかったから。
でも、それが母の願いなのだとしたら、やはり、
幸せになりたいと思う。
天化は少し笑うと、立ち上がって、天祥の肩に手を置いた。
そして呟いた。
「幸せに、なろうな。」
弟は、ちょっとキョトンとしてから、やがて納得したように、頷いた。
「うん!。」
それから、天化は蝉玉を振り向いた。
「あんたもな。」
蝉玉は、少し目を大きくしてから、言った。
「・・・あったりまえでしょっ!。」
誰よりも幸せになりなさい。
誰かを幸せにするために。
- 終 -
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