FROM RIE-sama

「蝉玉姫の優雅な1日?」その1

●序章

「はあーあ。たいくつぅ。」
一つのため息。
蝉玉は今日も窓辺に腰かけて外を眺めていた。うっそうとした森、高く青い空。
何度見ても同じ景色だったが、眺めずにはいられなかった。
ただただ退屈な毎日。外を見ていれば、何か面白いことが期待できるような気がしたから。
だから、たまにこうして外を眺めるのだ。
ま、何もないとは思うけれど。
「っていうかさあ、あたしって行動派タイプじゃん?アクティブじゃん?。こんな所でお姫さまやってるキャ
ラじゃないんだよね。」
蝉玉はまるで誰かにぐちっているかのようにそう言った。
しかし誰もいない。
妙にむしゃくしゃして、フリルのついたドレスの裾を、指でぎりぎり剥いた。
無論、剥ける訳がなく、それは単に彼女の細い指を痛めただけだった。
「痛っ・・・。たくもう!!。」
だんっと足を踏み鳴らして立ち上がった。
もう、じっとしているのはうんざりだ。こうなったら自ら行動にでてやろうと思った。
「うぃっしゃあ!。」
気合の掛け声を一声叫ぶと、蝉玉はヒールをがつんがつんと鳴らして、錠のかかったドアの方へ向かった。
ドアは大きく、重厚な造りで、とても押し破れそうなものではなかった。
銀色の錠もしっかりとかかっている。
「うー。」
腕を組んでしばし考える。
ふと、王(とうきゅうこう)の言葉が浮かんだ。
『蝉玉ちゃん。お部屋にはしっかりと鍵をかけなくちゃ駄目だよ。いつ痴漢が襲ってくるか分からないから
ね。」
「・・・・ったく、パパってば心配性なんだから。」
痴漢に合ったって、戦って殴り返す自信はあるのだ。ドレスのポケットにはちゃんと五光石を常備している
し。
「はっ・・。五光石があるじゃない。これでブチやぶれないかなっ?!。」
以前よりも、五光石はパワーアップしている。宮廷発明家の太乙真人がリミッターを外してくれたのだ。
ちなみに彼は現在行方不明である。造り途中だった人造人間に殺されたとか、宮廷武道家の道徳真君と一緒に
ロッククライミングを
して彼だけ遭難したとか、噂はいろいろ聞いたが、真相は分からない。
ともかく、このリミッター無し五光石でチャレンジしてみようと思った。
「よぉし、行くわよっ!!。マグワイヤ幻の72号ホームランを水泡に帰した謎の魔球ドリーム・蝉玉スペシ
ャル三号!!!!。」
足を高くあげ、舞ったフリルも全く気にせず、蝉玉は渾身の一球を投げた!。
と。
ドカバキドカバキバコッ!!グシャッ!!。
「ぎゃあー!!。」
断末魔(違うけど)の叫びと、ぐふぅーっと吐血する音がした。
小柄な人影が反対側の壁にぶつかり、落ちて、倒れた。
蝉玉は何が起こったか分からず、ぱちくりと目を瞬かせ、しばらくぽかんと見つめていた。
そして、鮮血を額から吹き出しながら、身体を起こした彼を見た。
「・・・・あら、太公望じゃない。」
「『あら』じゃないぃいいいっ!!。」
太公望は体中からバーバー血を吹き出させながら、蝉玉に詰め寄った。無理もない。(笑)
「どうかした?。」
「・・・どうかしたって、ドアを開けた相手にいきなり五光石ぶつけるのがおぬしの礼儀かいっ!!。」
「あ、ドア開けてくれたんだ。気が利くじゃない太公望。」
「そうじゃないー!!。」
多量の失血のせいか、彼はふらふらしながらそう言った。
「あーごめんごめん。あっはっは。だってこんなグッドタイミングでドア開けるとはさすがのあたしも
思わないしサー。大丈夫大丈夫。」
「何が大丈夫だっつーの・・・。」
太公望はぶつぶつと二言三言文句らしきことを言うと、額にこびり付いた血を拭って、真面目な顔をした。
彼は大臣で、一応蝉玉のお目付け役兼家庭教師なのだ。常に命懸けである。
「んで、用件は何?。」
「・・・用件って・・・お主まさか忘れたわけではなかろうな?。」
「?何を?。」
「だーっ!。今日はお主の婚礼の儀の日ではないか。」
「・・・婚礼って・・・古臭い言葉使うわね。」
「おい・・・・もっと別の部分に気づけ・・・。」
「ん。婚礼って・・・え、あたしが?。」
「だからそうだって。」
「はあーっ!!!?。何それーっ。ちょっとあたし聞いてないんだけど。」
「・・・いや、実を言うとわしも初耳・・・。」
(そして、懐からカンペを取り出しちらりと見る太公望。そこには、黒字で打った文字の上に何時の間にか
赤インクで訂正が・・・。何時の間にか・・。つまり神の見えざる手。)
「・・・訂正だそうだ。サブタイトルも最初の『幻の勇者降臨。蝉玉姫ビックリ大手柄!』から、『スクー
プ!蝉玉姫
ついに結婚。ラブラブ戦線5秒前』に、いつの間にやら変っておる。」
「ええーっ!?。何それぇ!!。そんなの無理よっ。このあたしでさえシナリオ全部覚えんのに10003時
間かかったのに!。」
「・・・・いや、この後は全部アドリブで良いそうだ。」
「はあ、何よそれ・・。」
流石に疲れたように、蝉玉は言った。
そんな彼女の腕を、太公望がつかむ。
「兎に角、大広間へ行くのだ。成せば成る、とも言うし。」
「分かったわよ・・・。」


「あー、スパイさーん。こっちっすよー。ご主人も。」
廊下を歩き、踊り場に出ると、階段の下にペットのスープーがいた。
「おおスープー。」
「スープーくーん。」
とたとたとたとそちらへ急ぐと、スープーは親しみやすい笑顔で迎えた。
「今日はめでたい日っすねえ。」
「んーまーそうかもね。」
「おいっ。スープー!!。」
太公望が何やらスープーを呼び寄せて、小声で話しかけた。
「ごにょごにょごにょ。ゴニョリータ。」(スパイではない!。蝉玉姫だ。台本よく読め。)
「はっ!・・・。」(すまないっす。ご主人。)
「何話してんのよ。」
「いや・・・なんでもない・・って、()つけて注釈したら全部まる聞こえではないかっ!。」
「っと、ところで蝉玉姫。候補の王子様がぞくぞく集まってるっすけど・・・目星をつけた相手はいるっす
か?。」
「候補って?。」
「あー何にも知らないんっすねえ・・・・。貴女は今日は各国から集まった6名の王子様とお見合いして、結
婚相手を
決めるっすよ。」
「へえ、そうなの・・・。」
「へえって・・・。」
「ねえ。」
三人の間に、新たな声が参入した。
振り向くと、太公望と同じくらい小柄な優男が立っていた。
「あら、理学博士の普賢真人。」
「はーい。蝉玉姫、今日はおめでとう。」
「どうも。」
そして、彼は太公望の方を向いた。
「ねえ、望ちゃん。ちょっと話があるんだけど、いいかな?。」
「ん?。なんだ?。」
「あのね、今行方不明の太乙真人のことなんだけどね・・・。」
「う。」
太公望が露骨に嫌な顔をした。
「・・・一応、わしの出番はこれで終わりなのだぞ。今日ははやく帰ってバー@ャンの桃まんを食べる予定な
のだぞ。
それを、そんな長引きそうな話を持ち出して・・・。」
「ああでもね、ほら、シナリオ何時の間にか訂正になってたでしょ。あれの都合らしいよ。とにかく、座標
5/9/28.00に行かなくちゃ。」
「はああ。」
「それにさ、バー@ャンの桃まんの皮にはタマゴ入ってるよ。食べちゃ駄目なんじゃない?。」
「う。ま、まさか・・・!!。」
うおーっと叫び声をあげて、太公望は頭を抱えた。
そして、あーバー@ャンの桃まん・・と呟いた。
「それを言うと、中村屋のあんまんも駄目なんだよね。丼村屋のあんまんはタマゴ入ってないから大丈夫らし
いけど。」
「おぬし・・・何故にそんなに詳しいのだ?。」
「そんなっ。仙人なら当然の知識らしいよぉ、望ちゃん。って実は僕も武吉くんから聞いたんだけどね。」
「武吉から・・・。」
武吉とは、先月この城に来た、郵便配達の青年である。
「うん。なんかね、ついこのあいだまで、全国あんまん店のモニターのバイトしてたんだって。」
「モニター・・。」
うう、いいな、と、太公望はつい呟いた。
「んじゃさ、もう行こうよ。早くうちに帰りたいんなら、もうあきらめてさっさと行った方がいいよ。」
そう言うと、普賢真人は太公望の肩をつかんだ。
「んじゃね、望ちゃん借りてくよ。蝉玉姫、カバさん。」
「どうぞー。」
「ボクはカバじゃないっすー!。」
やがて、正門の方に、二人の姿は消えていった。
蝉玉がふと、隣を見ると、スープーは顔を真っ赤にしていた。
「どうしたの?。」
「ボク、カバじゃないっすよ!。それなのに・・・。ああ、もう天化さんのせいっす!!。」
「天化?。」
蝉玉は聞いたことのない名前を反芻した。
「ええ。宮廷大工屋‘武成王‘の次男の黄 天化さんっす。」
「ふーん・・・。天化、ね・・・。」
蝉玉はなんだか妙に意味ありげに、その初めて聞いた名を繰り返した。


***

「ちょっと、遅れてしまったかな?。」
空を駆ける白い犬に乗って、彼はそう言った。
さらりと音のするような蒼く長い髪を束ねて後ろに流し、ひょうひょうと飛ぶその姿を見て、地上にいる少女
たちがきゃーっと叫ぶ。
思わず、にこりと営業スマイルをすると、黄色い声は一段と大きく高くなった。
「・・・ふう、どうも僕は目立ちすぎるみたいだな。」
(当たり前だって、空飛んでんだから。)
「ん?。今のつっこみは・・・?。」
彼は少し首をかしげて呟いてから、まあいいや、と顔をあげた。
目前に大きな城が見える。
「あれが、竜髭虎城。」
彼−楊ぜんの目的地である。
今日はあの城の一人娘、蝉玉姫の婚礼が行われるのだ。6人の王子を集めて。
楊ぜんは王子ではない。
一見、どこの誰よりも王子のように見えるのだが。
しかし、そんな彼は今、王子としてあの城に入ろうとしていた。
崇高なる目的のために。
すっと紫紺の目を閉じた。長い睫が頬に影を落とす。
「許して下さい・・・。武王。」
さるぐつわをされ、じたばたと動いている武王姫発の姿が浮かぶ。
無礼なこととは思うが、それも仕方の無いこと。
「じゃあ、行こうか。」
愛犬に向かってそう言うと、一見完璧すぎるその青年は城へと向かって飛んでいった。

 

 

 

●第2章

「ほら、集まってきたっスよ。王子様たちが。」
スープーが小声でそう言った。
蝉玉がそちらの方を見ると、確かに小さな人の輪があちこちに出来ている。
「っていうかさぁ、あたし、ぜんぜん知らないんだよね。誰が誰だか。」
「んもう、仕方ないっスねえ!。じゃあ、ボクが順番に教えてあげるっスよ。」
スープーはまず、左端の窓の方を見た。
そこには何人かの取り巻きと、割と背の高い男が一人立っていた。
「あれは?。」
赤い髪を手で弄びながら、蝉玉は興味なさそうに聞いた。
「あれはっスねえ・・・『九竜城』の4兄弟の一人、高友乾王子っスよ。彼は三男っスね。」
「ふうん・・・なんで長男が来ないの?。」
「さあねえ、なんでも長男は座標5/9/28.00へ修行に行ったと聞いたことがあるっスけど・・。」
「?なんかどっかで聞いた座標ね。まあ、いいわ。とにかく、あの王子、私好みじゃないわ。」
「へえ、結構いい線いってると思うっスけどねえ。」
「どんなに顔が良くても、髪にトーン入ってる人って嫌なの。黒髪が一番よっ。もともと美形ってタイプじゃ
ないし。」
「・・・変った趣味なんスねえ。」
「はいはい、じゃ次々。」
ぽんぽん、とスープーの頭を叩くと、蝉玉は正面を見た。
「あの人は?。あの・・・なんだか面白くなさそうに立ってるのは?。」
「ああ、あの人は・・・『崇城』の黒虎王子っスね。別に面白くなさそうなんじゃなくて、もとからあーゆー
顔なんスけどね。」
「ふーん。なんかあの人にはリミッター付き五光石は効かなそうね。むしろ、濃くなって普通になるんじゃな
い?。」
「酷い言い様っスね・・・。ま、でもボクもそう思わないことはないスけど・・・。それより今日は神鷹はい
ないみたいッスね。」
「神鷹?。」
蝉玉がそう尋ねると、スープーは何か言いかけて、はっと気づいたようだった。
(そして、スープーはマントに仕込んであったカンペを取り出した。そこには『話がややこしくなるから、神鷹
の出番は今回無し。』
とあった。スープーは少し青ざめる。)
「・・・は、ははは、なんでもないっス。何か勘違いしていたみたい・・・。」
「あら、そう。」
蝉玉は意外とあっさり済ませた。
その時。
「あ、あの・・・。」
また介入者の声が。
振り向くと、長い黒髪の男が立っていた。
クールそうだが、美形である。(しかし、蝉玉において美形は何の意味もなさない。)
あまり変化のないような表情だが、なんとなくおろおろしている。
「あなたは?。見かけない顔ねえ。」
「・・・あ、つ、お、王子の付き添いの者なんだが、王子が見当たらなくて・・・。」
(玉鼎リラーックス!!)
「王子?。どんな?。」
「あ、の・・・多分、黒い髪に布を巻いた馬鹿そうな男なんだが・・・。」
「はあ?。何、その多分て。」
「いや、もしかしたら、蒼い長髪で知的そうで強そうでかなりの美男かもしれないが・・・。(アドリブで台詞
増。ほんとは『蒼い髪の男』のみ。)」
「・・・?。あんたその人の顔知らないの?。」
「いや、知らないわけではないんだが・・。ああ、もしかしたら失敗して歌舞伎役者みたいになっているか
も・・・。」
一人で自問するその男をちょっと見つめてから、蝉玉はスープーを振り向いた。
「・・・何このヒト?。」
「・・・悪いヒトではなさそうっスけどね・・・。強そうだし。」
「そういう意味じゃなくて。」
「おい。」
また新たな介入の声が。
横からにゅいっと出てきた彼は、料理長の赤精子コックであった。
「あら、コックさん。」
「おい、なんかこうさあ、新しい出刃包丁はねえのかい?。もうこれ古すぎて使い物にならん。」
「・・・あれ、昨日もそんな事言って新しいの買ってなかったっスか?。」
ぼそり、とスープー。
しかし赤精子聞かないフリ。
「とにかく新しいのがねえと料理なんて作れないぞ。HAHAHAHAHA!(謎)。」
「・・・・変なヒト。」
「おや、そっちにいるのは・・・・・。」
赤精子が何かに気づいたように斜め前を見る。その視線の先にはさっきの黒髪の男。
「!!。」(玉鼎内心・げっ!。)
「玉鼎じゃねえか!。お前、こんな所で何してやがん・・・・ぐふぅう!!!。」
鋭い光が一閃。
蝉玉にもスープーにも何が起こったのか分からなかった。
しかし次の瞬間、その場にコックの姿はなかった。
「・・・・・・・・。(蝉玉&スープー唖然)。」
「あ、いや、失礼した。私は何か勘違いしていたようだ・・・。」
黒髪の男が何もなかったかのように、そう言った。
そして、そそくさと扉の方へ逃げて行った。
(舞台裏:楊ぜん・「師匠、大丈夫ですかっ!。」玉鼎・「・・・・・・・・。(緊張と疲労の為声がでな
い。)」)

***

― 所変って、ここは竜髭虎城、庭園。

「はあ、疲れた疲れた。」
手ぬぐいをぶんぶん振って、大きな男がごろん横になった。
すると、その男によく似た小さな少年がとたとたと駆けてくる。
「お父さん、ちゃんとお仕事しなきゃだめだよー。今日はおひめさまのけっこんしきだよっ。」
「・・・あーはいはい。っつーか、なんか最近あいつに似てきたなー、お前。」
「あいつって?。」
「ふふっ。お前のかーちゃんだよっ!!。」
そう言って、宮廷庭師兼大工師の黄 飛虎は、息子を高々と抱き上げた。
子供特有のきゃいきゃいというかわいらしい声が庭園中に響く。
そこにいた者(もちろん黄一族)がみな微笑えんだ。
「そういやあ、お姫様って誰と結婚するさ?。」
木陰の下で休んでいた、次男の天化が誰にとも分からない疑問を投げかけた。
彼は一応、黄家の跡取り息子だ。大工師としての。
近々、黄家は庭師と大工とで分ける予定なのだ。兄は庭師、天化は大工となるのだ。
「へえ、気になるか?。」
叔父の周紀が楽しそうに言った。
「ち、違うさっ!。だって顔も見たこともないし。」
「まあ、そりゃそうだろうなあ。」
「そうさっ!!。」
「あれ、なーんか赤くなってんな。天化、お前ってかわいい奴だよなあ。」
「あはははははは。」(一同笑)
「だ、黙るさっ。」
宮廷前庭では、いつものようにそんな和やかなやりとりが行われていた。

***

また場所は変わってここは座標5/9/25.00。
「本当に来おった・・・。」
「なーにを言ってるの、望ちゃん。仕事仕事。」
「お主がそこまで仕事人間だとは思わなかったのう・・。」
「当たり前じゃない、だってこの仕事が終わったらマル秘な報酬がもらえるんだよ。」
「な、何?。」
太公望はぴくりと反応し、真面目な表情になった。
そして普賢真人の方に少しよる。
小型飛行機の重心が、ずれた。
「わ、望ちゃん。もとの位置に戻って。傾いてしまうよ。」
「お。」
太公望がもとの席に戻ると、飛行機は水平になった。
「なんだか危なっかしい飛行機だのう。」
「太乙真人お手製の超軽量高速飛行機だよ。」
「・・・性能はよさそうだが、いまいち信用できん・・・。」
そう言って、太公望は窓から下を見た。
緑色の森が続いているが、その中に一つだけ切り立った山が。
座標5/9/28.00の位置である。
「太乙は本当にあんなところにいるのか?。」
「うん、多分ね。道徳もそう言ってたし。」
「ん?。よく考えれば道徳が助けにくれば良いではないかっ!。ロッククライミングに
誘った張本人だろうに。」
「なんかねー、僕に「太乙を頼む」って言って走ってっちゃったんだよね。」
こまったこまった、と普賢真人が言った。
「でもマル秘があるからね。」
「そのマル秘とは何ナノだ?。」
「マル秘だから言えないよー。」
「あ、そう・・・。」
太公望はため息をついた。
「とにかく、早くあやつを探さねば・・・。」
「桃まんは駄目だよ。」
「わーっとるわい!!。」

飛行機は山をゆっくりと旋回した。
が、赤茶色の山肌に、人の影は無い。
「いないね。」
「・・・あ、あそこ。」
太公望が指差したところには小さな洞穴があった。
「なんか怪しくはないか?。」
「うーん、そうだねえ。確かに。じゃ、ちょっと降りていってみよう。」
二人は飛行機から降りた。
ぱっと見、女の子のような小柄な二人はゆっくりと洞穴に向けて坂を登って行った。
「・・・・おい。」
突然、太公望が立ち止まる。そしてシッと言って黙る様、促した。
普賢真人はひそひそとささやいた。
「どうしたの?。」
「何やら音が聞こえぬか?。」
「音?。」
「いや、音というか、声というか・・・。」
「んー?。」
二人して耳をすます。
すると
かすかに

‐うわー・・・たいふうだあー。
‐だまれ、だまらんところす。
‐ぶっそうだなあ、とにかくたいふうだからね。

「・・・・?。」
太公望と普賢真人は顔を見合わせた。
「台風・・・?。」
「何の事だろうね?。」
「うーむ。」
「誰かが台風起こしたとか?。」
「の、割には平然とした感じだったのう。」
一瞬、考え込んでから、二人はまた歩き始めた。
そして、入り口につく。
「ほんと、怪しげな洞窟ー。」
「入るぞ。」
同時に脚を踏み入れる。
暗い道が続いているが、その先には光。
「誰かいるね。」
「ふむ。行くぞ。」

そしてその30秒後−
太公望は呆れて何も言えなくなっていた。


***


「ねえ、コウ天犬。僕はこのまま入っても大丈夫かな。」
楊ぜんは門の上空で止まっていた。
武王の姿で入るか、それともこのままで入るか悩んでいたのである。
「この身柄証明書も写真付きじゃないし・・・。どう考えたって、僕のままで
入った方がいいよね。」
「ワンでし。(うんうん。)。」
「たぶん、ここで僕の事を知ってる人はいないし、王子様ってやっぱり似合うと
思うんだよねー。」
うんうん、と自分で頷いてから、楊ぜんは長い髪をおろした。
「よし、行こう。コウ天犬。」
「ワンでし。(がってん。)。」

 

- 続く -

 

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