FROM MAI-sama

「空の足音」

綺麗な満月の夜。
ああ、そう云えば、あいつが死んだ夜もこんな綺麗な月だった。
・・・あいつも見ていたのかな。この月。
ちくり、とまた胸が痛くなる。
あたしは宿舎から少し離れたこの、乾燥した岩場に手頃な大きさの岩を見付け一人で座っていた。暫く月を見ていたら何だか悲しく成ってきた。
ここんとこ毎日だ。こんな気持ち。
だけどあたしは、それでも涙は流さなかった。
天化が居なくなったあの夜も、次の夜も、今日までずっと。
天化の死を確かなものにしたくはなかった。
天化自体、過ぎ去ったものにしたくはなかった。
だから、泣かずにいた。
泣く訳にはいかなかった。
「っくしゅ。」
寒い。
あたしがこんな薄着をしているのも原因だけど、そういえばそろそろ夏の暑さにも翳りが見えてくる時期だった。
「・・・そんな薄着してるからさ。」
「・・・・・・・!!」
一瞬、全てが止まった気がした。
静かな闇の中に響いた、懐かしい声。
「こらっ、聞いてるさ?蝉玉!!」
あたしが黙っていると、今度は怒った様な口調であいつは言った。
「・・・嘘。」
ぽつりと、あたしが呟く。
嘘だ。信じられなかった。
さっきまで、天化の死を確かなものにしたくないとか、そんな事思ってたくせに。
「馬鹿。嘘って何さ!嘘って。」
予想どうり、天化があたしを罵る。
馬鹿はあんたでしょ?何なのよ一体・・・。
ちょっと腹が立って、あたしも負けじと振り返るなり天化に喰ってかかった。
「っるさいわね!!何よあんた行き成り!ばーかばーか!!」
昔の様だった。
そう云うほど昔の筈は無いんだけど、天化とのそのやり取りは酷く懐かしい様な気がした。
「・・・やっとこっち向いたさね。」
天化がにっと笑う。
「!!」
てっきり、売り言葉に買い言葉で言い返してくると思ったのに、その反応は予想外に穏やかだった。
「な・・何よ・・・。」
あたしが戸惑っていると、天化が続けた。
「ぼけ〜〜〜っと月でも見てるから、てっきり泣いてるかと思ったのに。つまんねえ。期待外れさね。」
・・・ふざけんじゃないわよ、あたしの気持ちも知らないで!!
くやしいので再び怒り口調だ云ってやった。
「だーれが、あんたなんかの為に泣くもんですか!!水分の無駄ね!はっきり云って!」
「でも、悲しんではくれてたさ?判ってる判ってる。」
にやにやしながら天化が云う。
こいつ、本気でムカツク。
「自己満足してんじゃないわよ!!何なのよあんた、さっきから云いたい事ばっか云っちゃってさ!!って云うか何でここにいるのよ!?いきなりどっか行っちゃって、天祥君も”兄様が死んじゃった”とか泣いちゃって大変だったんだからね!」
「・・・あんたは?」
急に天化が真面目な顔に成る。
「だ、だから、何であたしが泣かなくちゃ成んないのよ!!云ったでしょ?あんた
の為に流す涙なんか、これっぽっちも・・・。」
あ。やばい。
鼻の頭が熱くなってきた。
「これっぽっちも・・・ない・・・っ。」
そう思うが早いか、みるみる内に奥の方から涙が溢れて来る。
言葉の最後の方は鼻声に成っていた。
「蝉玉・・・。」
さっきまで、少し遠くから聞こえていた天化の声が、今度は耳元であたしの名前を呼んでいる。」
必死で涙を堪えてたあたしを抱き締めてくれた。
あたしはまだ、涙を流していない。
「自分の気持ちに無理する事ないさ。無理して歯止めをかけることなんて無い。」
「無理なんか・・・してないよ・・・。」
頬に当たる黒髪、煙草の匂い、天化の身体の暖かさ。
全部変わってなかった。
全部懐かしかった。
・・・全部、大好きだった。
「・・・うっ・・。」
堰を切ったように次々と涙が溢れて来た。
それこそ、歯止めが利かなかった。
「善かった。あんたもちゃんと泣いてくれたさ。」
そう云って天化がさっきよりも強く、あたしを抱きしめる腕に力を込める。
「・・・・・・・。」
そのまま、二人の間を静寂が支配する。
だけど、
「・・・泣いたらさー・・・。」
あたしのこの言葉によって静けさは破られた。
「うん?」
「だって、泣いたらさ、あんたの存在が終わっちゃう様な気がして仕方なかったのよ・・只、認めたくなかっただけ。」
くすり、と天化が笑う。
「いつになく素直さね?」
少し恥ずかしく成って、あたしが云う。
「・・・うるさいわね。あんたも素直に喜びなさいよ。」
「もちろん、うれしいさ。」
「・・・伝わらない。」
情けない鼻声で呟いた。
あたしはその言葉に色んな意味を含めていた。
「・・・ほんっと、素直じゃないさ。」
言葉の意味を理解したのであろう、天化が苦笑したのが判った。
そうよ。あたしは素直じゃない。多分。ずっと。
でも、そういうあたしをあんたは好きに成った筈でしょう?
「蝉玉・・・。」
そう云い、天化の大っきな手があたしの頬に触る。
あたしは目を閉じた。
同時にあたしの唇に天化の唇が触れた。
・・・・・やっぱり、煙草の味だった。
そして、二人共静かにお互いの顔からはなれる。
「・・・これでいいさ?」
天化がその人懐っこい笑顔で笑う。
「フン。」
あたしは顔が赤く成っているのがバレ無い様に、素直じゃない態度に託けて顔を背ける。
そんなあたしを笑いつつ天化が云った。
「・・・そんじゃ、俺っちもう行かなきゃ。」
「えっ・・?」
はっとして、あたしは天化を見上げた。
「大丈夫さ。また逢えるから。そんなに慌てなくても。」
「ばっっ・・・!!慌ててないってば・・・!!!」
「・・・またな。蝉玉。俺っち居なくてもあんま泣くなよ!」
「馬鹿・・。」
ほんとにバカ。そんな笑い方されちゃ”行かないで”なんて、とても云えないじゃない。
「嘘付いたら、ぶっ殺してやるから・・・!!」
それが最後の言葉に成った。気が付くとあたし独り、この岩場に立ってた。
相変わらずのこの満月。
そして彼は確かにあたしに逢いに来ていた。
「・・・天化。」
心の中のわだかまりはすっかり消えていた。
大丈夫。夢じゃない。
天化はあたしに約束してくれた。
〜大丈夫さ。また逢えるから。〜
凛と心の内に響く、誓いの言葉。だったらあたしも待っててあげる。
あんたとの再会を。
だからそれまでは
「ばいばい。天化。」

 

暗闇が覚醒を欲している。
もう少しで空も明るくなってくるのだろう。

 

- 終 -


作者コメント>
カタギの友達に呼んでもらって、感想が「何か・・・恥ずかしい。」でした。 あーあ。へこんじゃうなー、もう・・・。しかし、懲りずに送ってみたりしました^^(懲りろよ・・・)呼んで貰えたらうれしいです〜!!! じゃあ、さよなら〜〜〜〜〜〜(逃避行)。

KAMIKAMII's COMMENT
岡田麻衣さんより頂いた天化×蝉玉小説です。天化封神の後の話ですが、ほんわかいい気持ちになりますね〜(*^_^*) 恥ずかしいだなんてとんでもない。この二人の隣にいたらあまりのらぶらぶっぷりに恥ずかしいかもしれませんが(笑) 蝉ちゃんのかわいらしいひねくれ具合と、天化の見透かしてるかんじがステキです! この二人の再会が楽しみですね♪ ステキな小説をありがとうございました!
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