FROM KURUMIRUMI-sama

「眠れぬ夜の小さなお話」

『なんで俺っちがあのバカ女と一晩過ごさなきゃならないさー?』

ここは周軍宿営地。月も星も見えない静かで少し肌寒い夜。
夜も更けてきた頃、黄天化は重い足取りで宿営地の北門に向かって歩いていた。

先程ジャンケンで負けて、今夜の北門の見張り番に決まったのは、この天化と蝉玉だった。
と言っても天化は別に、深夜の見張り番自体が憂鬱なわけではなかった。
天化の足取りを重くさせてるのは、今晩のパートナー、蝉玉だった。
『俺っちなんだかあの女苦手さー・・・。うるさくて、自分勝手で、向こう見ずで。人の心配なんか全然頭にない女さ!だけ
ど・・・。』
天化は深いため息をついた。

『どんな顔すればいいさ?
何を話せばいいさ?』

 

気が付くと天化の目前に北門のたいまつが煌々と照っていた。
『うわ、ぼーっとしてる間にもう着いちゃったさ。』
その明かりの下、蝉玉が岩の上にひざを抱えて座っていた。
その姿を見て、天化の心臓が急に激しく鳴り出した。
『ああ、なんか俺っち緊張して来ちゃったさ・・・』
「遅いわよ!」
開口一番、蝉玉はふくれっ面で天化に怒鳴った。
天化が謝るよりも先に、蝉玉が言葉を続けた。
「ま、あんたなんかいなくても、敵が来たら私一人でやっつけちゃうけどねっ。」
天化は自分の遅刻を謝るタイミングを失い、しかも蝉玉の見下したような態度にカッとなった。
「女のあんたに何ができるさ。」
天化が本気で怒っているらしいと言うことに蝉玉は一瞬ひるんだが、そこは蝉玉も負けてはいない。
蝉玉も口をとがらせて反論する。
「なによっ、差別する気?!あんたこそ劉環相手に何もできなかったじゃん!あたしがあんな目に会ってるときに!」

あの時のことはずっと蝉玉の頭から離れなかった。
『あたしが危険な目に会ってたって言うのに、こいつってばなんにも助けてくれなかった!』
しかし、その怒りが何故太公望ではなく天化だけに向けられているのか、蝉玉はその疑問さえ頭に浮かばなかった。
『だいっきらい、だいっきらい、イヤな奴!』
その気持ちが蝉玉に、必要以上にトゲのある言葉を吐かせていた。

天化は天化で、今一番言われたくない言葉を、しかも当の本人に言われたのだから、傷つかないわけがない。
天化はそのショックを蝉玉に悟られないように、冷静を装って静かに言い返した。
「あんたにはモグラがいるさ。あいつに助けてもらったんだからそれでいいさ?それに俺っちはあんたみたいなバカ女を助ける気には全
然なれなかったさ。」
嘘だった。
あの時も天化は内心、危なっかしい蝉玉にヒヤヒヤさせられっぱなしだった。
なるべく蝉玉を前線に出さないように気を使ってもいた。
そして劉環との戦いの時も、万が一の時は身を挺して蝉玉を守ろうと思っていた。
しかし天化はその機会を逃し、しかもその手柄を土行孫に持って行かれてしまった。
負けず嫌いの天化にとっては、聞仲に負けたとき以来の悔しい出来事だった。

そんな天化の心を知る由もない蝉玉は、天化の言葉に腹を立てて、目にうっすらと涙を浮かべていた。
負けず嫌いでは天化にひけを取らない蝉玉は、泣き顔を天化に見られるのが嫌で、ぷいと天化に背中を向けた。

蝉玉の沈黙は、天化を急に冷静にした。
『しまったさ・・・・。』
天化は蝉玉の背中を呆然と眺めていた。
『どうして俺っち嘘なんてついたさ?どうして本当のことをいえなかったさ・・・?』
二人の間に気まずい沈黙が流れた。

しばらくして天化は蝉玉の異変に気づいた。
「蝉玉・・・あんた泣いてるさ?」
「うっ、うるさいわね、ほっといてよ!」
すぐ泣いていると分かる鼻声に申し訳なく思うと同時に、天化の頭にある仮説が浮かんで、それは天化をどきりとさせた。
天化はその仮説を確かめるべく、ちょっぴり期待を込めて聞いた。
「・・・なんで泣いてるさ?」
何故、と聞かれて蝉玉は返答に困った。
『なんでだろう。こいつにハニーのこと言われて、あたしのこと興味ないって言われて、どうしてこんなに腹が立って悲しいんだろ
う。』
黙ったままの蝉玉にますます期待した天化は、思い切って蝉玉を後ろから抱きしめた。
『ああ、俺っちこれでこいつに嫌われるかもしれないさ・・・。でも。』
自分を止めることができなかった。
熱くて細くてやわらかいからだ。
蝉玉はびっくりして、涙も止まってしまった。
「蝉玉・・・俺っちにこんなことされて嫌じゃないさ?」
天化の熱い息が蝉玉の首にかかってくすぐったい。
「嫌って言うか・・・。」
『よく分からない。でも、嫌じゃない気がする・・・。こういうの、望んでた気がする・・・。』
蝉玉を自分の腕の中に収めた天化は、急に優しく素直な気持ちになった。
「蝉玉・・・ごめんさ。俺っち本当はあんたのことが心配さ。」
蝉玉は天化の言葉一つ一つが、自分を変えていくのを感じていた。
『どうしてだろう。あたしの好きなのはハニーのはずなのに・・・。』
天化は蝉玉の頬に伝わる涙に口づけをした。
そして、優しく唇を奪った。
蝉玉にはもはや、何が正しく何が間違っているのかと言うようなことを考える余裕はなかった。
『なんで?ホントに分かんないよ・・・。』
蝉玉は天化の腕の中で、意味のない疑問を繰り返し繰り返し唱えていた。

天化は蝉玉の可愛らしい唇にすっかり夢中になっていた。
『ああ・・・俺っちもうダメさ。』
たいまつの炎がゆらゆらと揺れた。
『俺っち、この自分勝手なバカ女に、本気で惚れちゃったらしいさ!』

恋人達の、眠れぬ夜の小さなお話。

 

- 終 -

 

KAMIKAMII's COMMENT
くるみるみさまよりいただいた、天化・蝉玉小説です(^_^)  ありがとうございます(#^.^#) 「かわいらしい唇」かわいらしいくちびるかわいらしい・・・3、2、1、ぶはっ!!* はっ鼻血がっ・・・!!! もう天化っち彼女にめろめろさ〜(^_^)「聞仲に負けた」事と、はかりにかけられるぐらい、くやしい思いしてたってところがさらに、あちあちっ!!! (笑) 天化っ!! 友の会が許すっ、そのままさらにきゅ〜っと抱きしめてなだれこみよっ!!(爆) そして「今夜は眠らせないさ」さ!  って「眠れぬ」の意味がちがーう!! 妄想菌繁殖率増大なステキな小説を本当にありがとうございました!!
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