FROM AORI-sama

「思うはあなた一人」

外は快晴。
一週間ほど雨が降っていたので、その日は久しぶりの秋空だった。
「師叔、頼まれた資料持ってきたさっ」
太公望の部屋に入ってきた天化が、横になっていた太公望に言う。
「うむ。すまんのう」
「具合のほうは大丈夫さ?」
「全く…、皆心配しすぎだ。わしは少し熱を出しただけだぞ」
「作戦会議の真っ最中に倒れれば、皆心配もするさ」
資料を渡し、天化が呆れたように言う。
太公望は昨夜の作戦会議の最中に倒れ、そのまま部屋に運ばれたのだ。
遅い夏風邪と過労が重なり、熱も高く、何日か休むように武王から命令された。
実際は、周公旦の命令だろう。
「ぁ、そう言えば、楊ゼンさんの居場所知らないさ?」
「楊ゼン?いや、わしは見ておらんが……。おらんのか?」
分厚い書類から目を離し、太公望が驚いたように尋ねる。
「何処にもいないさ」
「ふむ…、困ったのう。わしの代わりを務めて欲しかったのだが…………」
心当たりを考えながら、太公望はもう一度資料に目を落とした。

その頃、仙人界の鳳凰山近くの岩場に人影があった。
「そう。公主も最近は具合良いんだ?」
女性のような柔らかな笑みの主は、目の前にいた赤雲に言う。
サラサラの青い髪の上に、金色の天使の輪。
「公主の具合がしばらく悪かったから、心配してたんだけど、それなら大丈夫だね」
特徴のある容姿は、あの太公望の親友・普賢真人のもの。
「ぁ、これ、公主へのお見舞い」
赤雲の手に渡されたのは、濃紅色の断腸花。
「公主様も喜びます。…………本当に、太公望様が人間界に降りてからは、何週間も
熱が下がらない日が続いていました……が…。……あら?…」
「どうかした?」
普賢は尋ねながら、会話の途切れた赤雲の視線の先を見る。
その先には、白い犬に乗った長髪の青年がいる。
「楊ゼン君っ!」
普賢は大声で青年を呼んでみる。
自分の名前を呼ばれ、青年は振り返った。
やはり、玉鼎真人門下の楊ゼンだ。
「普賢真人様に、竜吉公主様の所の…………」
「赤雲です。ここから先は鳳凰山ですが、公主様に何か?」
「ええ。少し話が…」
「何かあったのかい?楊ゼン君」
普賢は有無を言わさない笑顔で尋ねた。
「いえ、太公望師叔が体調を崩されて、竜吉公主様は師叔と仲の良い友人だったそう
ですから、報告をしておいたほうがいいだろうと」
「へーぇ、望ちゃんが?」
内心、『また無理をしたのか…』…と、無茶ばかりする親友に呆れた。
そして、もう一度微笑む。
「楊ゼン君がいないと望ちゃんが大変だろうし、公主には僕が伝えておくよ」
「ぇ、いえ…、普賢師弟にそんな事をさせるわけには…………」
「んー……、そう?それなら仕方がないね。はい、これ持って」
「ぁ、はい?」
普賢からポンっと渡された球体。
その球体には、『核融合』と言う文字が浮かんでいる。
「!?」
気付いた時には既に遅く、楊ゼンは太極符印の爆発に巻き込まれ、真っ逆さまに落ち
ていった。
「…ぁの…………、…普賢様、今のは…大丈夫なんですか?」
「うんっ。封神されない程度の小規模爆発だし、あの犬の宝貝も一緒だから大丈夫だ
よ。それに、あれくらいなら三日もすれば動けるようになるよ。多分」
最後の『多分』が気になるが、赤雲は『それなら構いませんね』と、簡単な返事を返
す。
「これから公主様の所へ行くんですか?」
「ううん。望ちゃんのお見舞いに行くよ。ぁ、赤雲って確か…周軍に友達いたよね
?」
「蝉玉ですか?」
「うん。その子。あのね、ちょっと耳貸して」
赤雲に手招きをして、内緒話をする。
悪巧みをする子供のような笑顔。
赤雲もその話を聞くと、ニコッと笑う。

太公望が熱を出して三日目の朝。
普賢と赤雲は見舞いに訪れていた。
「普賢に赤雲とは珍しい組み合わせだのう」
「望ちゃん、休みなら休みらしく寝てなよ。治るものも治らないよ」
「ふむ……、そうは言っても、楊ゼンがおらんのだから仕方があるまい。まあ、あや
つの事だから、何処かで封神されておるという事はないだろうが」
太公望の言葉に、普賢の笑顔は眉一つ動かない。
楊ゼンの事は全く気にしていない証拠だろう。
もちろん、赤雲は内心、わずかながらに動揺していた。
「太公望ー、お茶持ってきたわよっ」
部屋に響いた蝉玉の声。
蝉玉は部屋に入り、三人にお茶を渡す。
太公望は、『ちょうど喉が渇いておったのだ』と言い、それを一気に飲み干した。
「ん?蝉玉、新しい葉を仕入れたのか?」
「ううん。普賢様の持ってきたお茶の葉を使ったの」
「普賢…の?…っ!?まさかっ!」
「クスっ………。ごめんね、望ちゃん。僕が品種改良した即効性の睡眠薬茶だよ」
「……ぅ…っ…………」
睡魔が襲う。
太公望は何も考える事が出来ず、その場に眠りこけてしまった。
さすがは十二仙の一人の改良したお茶だ。
「普賢さん、これって師叔の同意の上とは違うような気がするさ……」
「いいんだよ。望ちゃんが簡単に仙人界に帰ってくれるわけがないってよく知ってる
し」
普賢は穏やかに微笑み、眠っている太公望を見る。
天化はその様子に溜め息を付き、太公望を抱きかかえると、普賢の黄巾力士に乗せ
る。
「協力ありがとう、二人とも。僕だと望ちゃんが運べないから助かったよ」
「別にいいけど、早めに返してね。そんなのでもあたし達のリーダーだし」
「うん。二日くらいで返すよ」
「蝉玉、天化さん、これは報酬です」
「ありがとうっ、赤雲!これが手に入るなら、太公望に睡眠薬入りのお茶を出すくら
い何十回でも頼んでっ」
嬉しそうに報酬の入った封筒を受け取る。
天化も同じ封筒を貰った。
「本当にありがとうっ」
普賢は礼を言うと、黄巾力士の手に赤雲を乗せ、仙人界へ帰っていく。
「…ねぇ、今更だけど、太公望大丈夫かしら?」
「普賢さんは師叔の親友だって師父が言ってたし、大丈夫だと思うさ」
「ふぅーん…、太公望の親友ねえ……。ぁ、そう言えば、天化は報酬に何貰ったの
?」
「ぇっ、ぇ…っと……。そっ、そう言う蝉玉は何貰ったさっ?」
「ぁ、あたしは内緒よっ」
蝉玉は慌てて封筒を握り締める。
(まさか、赤雲の撮った蝉玉の写真を貰ったなんて、口が裂けても言えないさ……)
(天化の修行時代の秘蔵写真が欲しかったなんて言ったら、絶対笑われるわ)
二人は渇いた笑い声を上げ、自分達の部屋に戻っていく。

花の匂いがする。
懐かしい………庭の匂い。
「………………………………」
目を覚まし、太公望は見覚えのある天井をぼんやりと眺める。
「起きたか?太公望」
「っ!公主っ!?」
自分の名を呼んだ声の主に驚いた。
そう、頭がはっきりすれば間違えるはずなどない。
ここは竜吉公主の洞の客室だ。
「昨晩、普賢がおぬしを連れてきたのだ。この鳳凰山の近くで倒れていたそうだ」
「……っ…、あの馬鹿者は…」
「ん?どうかしたか?」
「ぃ、いや、何でもない」
慌てて返事を返し、竜吉公主を見る。
相変わらずの美麗。
珍しく顔色の良い事に安心した。
「粥を作ってきた。少しは食べたほうが良い」
手に持たれた盆。
竜吉公主が寝台の側の椅子に座ると、太公望は起き上がろうと義手の左手に力を入れ
た。
その瞬間、左手が上手く動かず、また寝台の上に倒れてしまった。
(っ………、普賢の奴め…、睡眠薬以外にも何か仕掛けおったな………)
自分の親友ながら相変わらずだ…と付け足すと、腕を使わずにどうにか起きあがる。
「腕をどうかしたのか?」
太公望の様子を見ていた竜吉公主は、顔を覗き込みながら尋ねる。
「ぁ、ぃや、その………義手の調子が少しな」
「そうか」
竜吉公主は軽く微笑むと、レンゲで粥を掬う。
「少し熱いぞ」
「ぁ?………はふ・・・っ」
口を開いた瞬間、竜吉公主の持っていたレンゲから粥が滑り落ちる。
適度な温度の保たれた粥。
「公主、わしの右手は………」
「どうかしたか?」
「…………いや、何でもない」
実際、右手は使えたのだが、竜吉公主の笑顔に負け、そのまま食べさせてもらう事に
した。
「太公望、あまり無理をするでないぞ。私も心配しておるのだから」
「わかっておるよ」
ほのぼのした雰囲気の中、太公望はもう一口粥を食べる。

太公望が仙人界に滞在していた二日間、鳳凰山近辺では何度か爆発音が響いた。
「全く、望ちゃんと公主の邪魔をしようなんて許せないなぁ」
岩に座った普賢は手に太極符印を持って、天使の笑み(?)を見せていた。
「せっかく望ちゃんがゆっくり休めて、且つ、公主が喜べるようにしたんだよ。まさ
か、僕達の苦労を無駄にする気なんてなてよね?」
既に意識のない太乙真人と玉鼎真人を見ながら、普賢はきっぱりと言う。
「普賢様、皆さん大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。それよりも、それ曼珠沙華の花?」
赤雲の持っている赤い花を指差し、普賢は尋ねた。
「ぁ、普賢様がいつも公主様のお見舞いを持ってきて下さるので、私からのお礼で
す」
差し出された曼珠沙華の花。
普賢はそれを受け取り、穏やかに笑う。

 

- 終 -


作者コメント>
すみませんっ!自爆しておりますっ!自滅しておりますっ!! 当初は太×竜←普のはずだったのに、何故か太×竜←普←赤…です。 しかも、ちょっと楊ゼンが竜吉に惚れてるらしいし…。 ちなみに、断腸花は中国名で呼ばれている名前で、実際はシュウカイドウと言います ♪ シュウカイドウの花言葉は『片思い』、曼珠沙華は『思うはあなた一人』です。 多分、普賢と赤雲の組み合わせは個人的に好きなキャラクター同士のカップリングで すね。←マイナー路線一直線だわ…。 って事で、かみかみーさん、こんなのでOKですかね? ちょっと自分の欲望のままに太公望と竜吉公主のほのぼのが書きたかっただけなんで すが。その上、ブラック普賢が書きたかっただけ。(笑)

KAMIKAMII's COMMENT
煽さまより頂いた太×竜←普←赤…!! これではや三作目!! あああっありがとうございます〜(*^.^*) って、ええっ!? 普賢→竜吉なんですか!!! うわぁ・・・なのに親友の恋路を応援するなんてやっぱりエンジェルv ・・・っていうわりには手段に容赦ありませんが、そんなところがなおステキング☆ 太公望もちゃっかりさんだし〜(*^.^*) ああんあついあつい!!! (笑) 普賢に曼珠沙華。別名、彼岸花、華やかな外見と裏腹の毒の花ですね、そういえば (笑) すてきな小説をありがとうございました!!!
宝絵扉頁へ戻る