FROM AORI-sama

「約束」

「蝉玉、眠いのなら少し休んだほうがいいぞ」
夢うつつだった頃に響いた声。
太公望の声だ。
「んー…、大丈夫よ。それに、天化達が太乙真人様に『花火』って言うのを貰ってくるんでしょう?それやってみたいし、今日の見張りは私だから」
「そうか。だが、疲れがあるようなら少し休んだほうがいいからのう」
「平気、平気っ。この私を誰だと思ってるの?」
蝉玉は高らかな笑い声を上げ、太公望に言う。
太公望はそれを見ると、見回りに行く事にした。
(ぁ、ヤバ……。太公望に大見栄きったばかりなのに眠気が………………。……天化に告白するのかも悩まないといけないのに…)
眠気の襲う頭の中。
蝉玉はまた…懐かしい夢の中に入っていく。

蝉玉がまだ幼かった頃、殷は今よりは平和だった。
「天化ーっ、遊ぼーっ!!」
暑い真夏日の下、明るい声が響く。
開いた扉から現れたのは、賈氏と幼い天化。
「天化、おはようっ。賈氏様もおはようございますっ」
「おはよう、蝉玉。天化、今日は何処へ?」
「蝉玉と町の外れの森までお出かけさっ」
「そうですか。気をつけていっていらっしゃい」
賈氏の持っていたお弁当を受け取り、天化と蝉玉は手をつないで出ていく。
「二人ともっ、危ない事をしてはいけませんよっ!」
「はーいっ!!」
元気のいい二人の声。
賈氏はそれに微笑み、まだ眠っている武成王を起こしに戻っていった。

真夏であるにもかかわらず、森の木陰には風が吹き、涼しさを感じられた。
大木の下でいつものようにお弁当を広げる。
「天化のママって綺麗よね」
「当然さ。俺っちのおふくろだもん」
母親の事を褒められ、天化は上機嫌でおにぎりを食べる。
「私のママってどんな人だったのかな?天化知ってる?」
「知ってるわけないさ。俺っちと蝉玉って一つしか年変わらないし」
「そうよね。んー………、賈氏様みたいに綺麗な人だといいなぁ……。でね、お料理も上手で、優しくて、頭もいいのっ」
母親を知らない蝉玉にとって、賈氏は憧れだった。
そして、賈氏も娘がいなかったためか、蝉玉を可愛がっていた。
「でも、俺っちの憧れはやっぱり親父さ。いつか絶対に親父より強くなるんだ」
「武成王様は強いものね」
竹筒の水筒を片手に、蝉玉が笑う。
「ぁ、水筒が空っ。私近くの川で水汲んでくるねっ」
「蝉玉っ、俺っちが行くさ。蝉玉よりも俺っちのほうが足速いからっ」
蝉玉にそう言うと、天化は川の方へ走っていく。
さすがは仙人骨を持っているだけあり、アッと言う間に姿は見えなくなった。
「………天化ったら、水筒持っていかないと意味ないのに」
蝉玉の右手に持たれた水筒。
天化の間の抜けた行動に、蝉玉は大笑いをして、のんびりと後を追う。

天化が川に着いたのはそれから五分もかからなかった。
普通の人間なら二十分はかかる道のりなのだが、天化には関係なかった。
「って、水筒忘れた」
川まで来て、水筒を持っていない事にやっと気付く。
「ヤバイさ。また蝉玉に馬鹿笑いされるさっ」
慌てて戻ろうとし、振り返る。
だが、その瞬間、目の前が暗くなり、誰かにぶつかる。
「おやおや、大丈夫かい?道徳は筋肉ダルマだから痛かっただろう?」
「太乙、俺の弟子探しに無理矢理ついてきて、その上、弟子候補に悪い印象を与えるなよ」
「本当の事じゃないか。ぁ、はじめまして、黄天化君。私は太乙真人。こっちは道徳真君って言って、私と同期の仙人だよ」
道徳真君を全く無視し、太乙真人は天化に自己紹介する。
「仙人様が俺っちに何か用さ?」
「君っ、俺と一緒にキントレしようとは思わな…………」
ゴンッ!何処からともなく投げられた石が道徳の頭にヒットする。
「天化に何してるのよっ。この変態っ!」
「ぁ、蝉玉」
「天化、こんな怪しい人達と話しちゃ駄目よっ。特にこのジャージ男怪しすぎるわっ」
蝉玉の言う事は最もだ。
「帰ろうっ。パパ達が心配するっ」
蝉玉はそう言うと、天化の手を握り、逃げるように走る。
「道徳ー、今のはあの女の子の言う通り、すっごく怪しかったと思うよ」
「そうか?」
「後で黄天化君の親御さんに仙人骨の事を話しに行こうよ。その方が怪しまれないし」
太乙真人はそう言うと、黄巾力士のリモコンを手に取り、それを動かし始める。

天化が両親から仙人界の話を聞いたのはその日の夜。
そして、出発が決まったのは二日後だった。
「蝉玉ーっ?何処さーっ?」
城の中を捜しても、蝉玉の姿が見当たらない。
いつもならば、朝から天化を迎えに来ているのに、今日は姿を見せていない。
「天化っ、ここよ、ここっ!」
「ぇ?」
声が響いたのは頭上。
城壁の上に、幼い少女の姿が見える。
「なんでそんな所にいるさ?」
「………………そう言う気分だから」
天化に顔を見せようともせず、蝉玉は言う。
逆光のせいで天化からは蝉玉の顔が見えない。
「蝉玉、一昨日からずっと怒ってるみたいさ」
「…………………」
「俺っち今日仙人界に行くのに、蝉玉怒らせたまま行きたくないさっ」
一生懸命な天化の顔。
それがやけにぼやける。
「……天化、私何も怒ってないよ」
「嘘さっ!蝉玉絶対に怒ってるさっ」
「怒ってないよ。だから…、行ってよ。仙人界に行けば、天化の夢は…叶うんだから」
「…蝉玉?」
声がかすれている。
城壁の上から何かが落ちてくる。
冷たい水。
「泣いてる…さ?」
何か悪い事でもしたように、天化が尋ねる。
だが、蝉玉は何も言わない。
天化はその様子を見ると、一呼吸置いて笑顔を見せる。
「蝉玉、俺っち絶対に帰ってくるさ。帰ってきて、一番最初に蝉玉に『ただいま』って言うさ」
「……………」
「約束さ」
「…うん。約束ね」
袖で顔を拭うと、蝉玉もニコッと笑う。
その約束だけが、蝉玉の涙を止めた。

「ふぁ……」
夢から目を覚ました蝉玉は小さなあくびをした。
「まだ太公望も天化達も帰ってきてないわね…」
辺りを見回し、蝉玉は呟く。
眠気覚ましに顔でも洗ってこようと、座っていた小さな岩から飛び降りた。
空には綺麗な月が浮かんでいて、珍しく下ろしていた蝉玉の髪が月明かりに揺れる。
「懐かしい夢だったわよね…。昔の夢なんて滅多に見なかったのに」
独り言を言いながら、空を見る。
「昔の夢って何の事さ?」
「ぇ?ぅわッ!!天化っ!?」
背後から響いた低い声に、慌てて振り返る。
聞き間違える事などない黄天化の声。
「なっ、いつ帰ってきたのっ?」
「たった今。そこで師叔に会って、蝉玉が『花火』楽しみにしてたって聞いたから、呼びに行くところだったさ」
「そ、そうなの」
言葉が上手く言えていない事に余計に慌ててしまう。
「じゃ、じゃあ、早く『花火』やりに行こうよっ」
顔が赤くなっていそうで、蝉玉は天化に顔を見せないように速く歩く。
「ぁ、蝉玉」
「…何?」
「ただいま」
「はっ?」
突然だったため、間抜けな応対をしてしまった事も全く考えず、通り過ぎようとした天化に思わず振り返る。
「約束だっただろ?帰ってきたら、一番に蝉玉に『ただいま』って言うって。俺っち親父にも兄弟にもまだ言ってないさ」
悪戯をした後のような笑顔。
蝉玉はそれにつられて、笑ってしまう。
「こういう所が好きなのよね」
聞こえないように小声で言い、嬉しそうに笑う。
「何か言ったさ?蝉玉」
「お帰りって言ったのよ。ほらっ、早く『花火』やりに行こうっ!皆待ってるわよっ」
明るい声でそう言うと、蝉玉は天化の手を引っ張りながら広場を目指していく。

 

- 終 -


作者コメント>
竜太と違ってハッピーエンドにするつもりだったのにっ、結局は告白できずじまい!?頑張ったのに……(>。<) でもこれ、天化と蝉玉の小さい頃と、夏だからと言って花火を書きたかっただけの話なんですね。実を言うと…。(夏嫌いだけど花火するのは大好きっ!) かみかみーさん、こんな阿呆な小説でごめんなさいっ。 ハッピーエンドで終わっているのかは皆さんの独断で決めてしまってくださいな。

KAMIKAMII's COMMENT
煽さまより頂きました、天化・蝉玉小説です〜。ありがとうございました!!(*^.^*) 天蝉で密かに飛虎・賈氏な所(そう見えた私/笑)が幸せです〜☆ ちびちび天化とちびちび蝉玉のほのぼのがかわいいです〜っ(=^.^=) そして不審人物二人もいい味だしてます!!(密かにこの二人の組み合わせ好きなんで、つぼにきましたの・・・) そして蝉玉の直感は正しかった(爆) ラストのあとの二人は手をつなぎながら、花火を眺めたりしたのかな〜。妄想は花火と一緒に大きく広がります。どどんがどん!!☆★☆
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