FROM TACHIBANA-sama

「気持ち」

私は、素直な少女なんかじゃない。
言葉と気持ちが一致してくれないから。ううん、一致できないから。
アンタに言いたいことは 「好き」 ただ、それだけなのに。
どうして 「嫌い」 しか言えないんだろう?
そっと鏡の前に立って、呟いてみた。
「好き・・・天化のこと、本当は大好きなんだよ・・・」
鏡には、泣いている少女が映っていた。
切なさと、限りない愛しさで泣いている、紛れもない「私」だ。
この思いを、天化、アンタにどうやって告げたらいい?

夜、蝉玉は一大決心をした。
天化に、今度こそ気持ちを伝えるつもりなのである。
ドクン、ドクン、ドクン・・・
天化のテントに近づくほど、心臓は高鳴っていった。
(もう心臓が爆発しそう・・・! テントに入ったら、私は一体どうなってしまうの?)
「て、天化、入るね。」
様々な考えが巡る中、彼女は意を決してテントに入った。
蝉玉の想い人・天化は少々驚いたようだ。突然の来客、そして・・・
「あーっ!お酒飲んでる!!」
「しっ、静かにするさ!オヤジに内緒で持ってきたんだから・・・」
顔が少し赤くなっていた。明らかにたくさん入っていたと思われる酒は、
半分くらいになっていた。
だが顔が赤い原因は、それだけではない。
こんな夜更けになろうとしているときに、少女一人が無防備な格好で男の元へと来たのだ。照れるのも仕方ないだろう。
そんな天化の表情に気づいたのであろうか。蝉玉は身を乗り出した。
「お酒のこと黙ってる代わりに私にもちょうだいっ。私、飲むの初めてなんだ!」
「そんなのイヤさ・・・」
「じゃあ、武成王に言っちゃってもいいのー?」
「ぐっ・・・仕方ないさ。その代わり、ちょっとだけさ?」
「やったぁ!」
次第にお酒が入って、二人の会話も弾んだ。
緊張(?)していた蝉玉にとってはありがたかったのかもしれない。
飲み慣れている天化はすぐによいもさめ、反対に初めて飲む蝉玉は依然としてさめなかった。
「聞いてよ!太公望ったらねー・・・」
ハイテンションな蝉玉はまだまだ話を続ける。とっくに告白のことなど、頭の隅にも置いていなかった。
「・・・・・だったのよぉー!ね、面白いでしょ?きゃはははっ」
いつしか空は霧の漂う漆黒の闇に包まれ、テントの中も蝋燭の明かりがわずかな光を灯しているだけだった。
「・・・・」
蝉玉の問いにも答えず、天化はじっと彼女を見つめていた。
「・・・天化ぁ?」
酔いの醒めない彼女は、相づちを打ってくれない天化にムッとした。
「ねぇ、何よぉ、黙っちゃって・・・」
「・・・」
それでも天化は蝉玉を見つめたまま、沈黙を続けた。
静かな時が刻々と過ぎてゆく。
耳が痛くなるほど、あたりはしんとしていた。
そして、天化がその沈黙を破った。
「蝉玉・・・」
「な、何?」
「蝉玉のこと、ずっと好きだった」
蝉玉は一気jに酔いから醒めた。と同時に、わずかな光を灯していた蝋燭の火が消え、テントも空のように、漆黒の闇に包まれた。
(答えは一つしかない。これこそ、私が待っていた言葉なんだ・・・)
しかし、彼女の口から、素直じゃない発言が飛び出す。
「私は、アンタのこと・・・大嫌いなの!私には、ハニーもいるのよっ!」
(違う、好き、好きって言いたかったのに・・・)
蝉玉は、言った途端に後悔した。
ハニーもとい、土行孫は、天化の気を引くためのカモフラージュに過ぎなかったのだ。
「俺っちは、構わないさ・・・」
真っ暗で、互いの顔が確認できない。だが、蝉玉には、天化がとても
切ない表情を浮かべている、そんな気がした。
「天化・・・でも・・・」
「・・・でも?」
「今日一日は、私を好きにしていいわよっ。ほら、ハニーもいないし、思い出くらいなら・・・」
自分はとんでもないことを口走っていた。
(どうして、ここまで素直じゃないんだろう?せっかく好きって言ってくれたのに・・・)
悔しくて、止めどなく涙があふれた。
そんな蝉玉を慰めるかのように、天化は隣に座って腕を肩へとまわす。
「アンタに、キスしても?」
予想外の言葉だった。すっかり嫌われたと思っていたのに・・・。
蝉玉は、驚くほど素直になっていた。
「・・・いいよ」
「こうやって、抱きしめても?
「・・・いいよ」
「じゃあ、・・・蝉玉を抱いても?」
「・・・うん」
天化の手が、蝉玉の頬へと触れる。涙に気づいたのだろうか、天化は、瞼にそっとキスをした。

 

暗闇の中で、という不安。そして、愛する人に抱かれるという安心。
そのような中で、蝉玉は愛する天化に身を委ねた。


切なく、短い夜だった。


蝉玉は、天化の腕の中で眠っている。すやすやと、寝息をたてて。
天化は、彼女の耳元にそっとささやいた。
「素直じゃないアンタも、素直なアンタも、俺っちは両方とも好きさ」

 

- 終 -

KAMIKAMII's COMMENT
立華アイさまより頂いた天化・蝉玉です。 ありがとうございます〜(#^.^#) もう蝉ちゃんったら素直じゃないんだから〜 (笑) でもそこがかわいいっ(^_^) なぁ天化? ふっふっふっ。 友人関係から一歩踏み出す時って、勇気いりますよね。もし告白してふられたら、せっかく築いた友人関係が壊れてしまうかもしれない。それだったら今のままでいる方が幸せかもしれない。でも、やっぱり・・・ぐるぐるぐる、思考の迷路をさ迷ってしまったり・・・。この二人の場合は必要だったのは「あと一歩の勇気」でした。周囲からしたらきっと、さぞかしもどかしかったに違いない? (笑) アイさま、素敵な小説をありがとうございました!!(*^_^*)
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